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ID番号 09215
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 イビデン事件
争点 ハラスメントをうけた子会社社員による親会社への損害賠償請求の可否が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(被告、被控訴人、上告人)の子会社の契約社員としてYの事業場内で就労していたXが、同じ事業場内で就労していた他の子会社の従業員(以下「従業員A」という。)から、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたことにつき、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理(以下「法令等」という。)の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備していたYにおいて、上記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して、Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案である。
(2)岐阜地裁大垣支部判はAによるXへのセクハラ行為が存在していないとして請求を棄却し、Xが控訴。名古屋高判は、Yが法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備したことからすると、人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきであり、Yの信義則上の債務不履行責任を認めXの請求を一部認容したためYが上告した。
参照法条 民法709条
会社法362条
労働契約法
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2018年2月15日
裁判所名 最高裁判所第一小法廷
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(受)2076号
裁判結果 破棄自判
出典 最高裁判所裁判集民事258号43頁
裁判所時報1694号1頁
判例時報2383号15頁
判例タイムズ1451号81頁
金融法務事情2109号71頁
金融・商事判例1543号8頁
金融・商事判例1549号22頁
労働判例1181号5頁
労働経済判例速報2350号3頁
審級関係 確定
評釈論文 竹内(奥野)寿・ジュリスト1517号4~5頁2018年4月
竹林竜太郎、津田洋一郎・NBL1119号20~28頁2018年4月1日
山口利昭・ビジネス法務18巻6号70~74頁2018年6月
高仲幸雄・労働法令通信2485号21~24頁2018年5月8日
得津晶・法学〔東北大学〕82巻2号55~74頁2018年6月
大石遼・LIBRA18巻7号40~41頁2018年7月
門口正人・金融法務事情2096号62~65頁2018年8月25日
榎本英紀・労働経済判例速報2350号2頁2018年8月20日
山崎文夫・労働法律旬報1919号22~29頁2018年9月10日
中山慈夫・ジュリスト1524号131~134頁2018年10月
浜辺陽一郎・青山法務研究論集16号55~65頁2018年10月
高橋英治・月刊法学教室459号152頁2018年12月
三笘裕/監修/小山田柚香・ビジネス法務19巻1号54頁2019年1月
柳澤武(労働判例研究会)・法律時報91巻1号134~137頁2019年1月
原弘明・民商法雑誌154巻6号113~118頁
土岐将仁・季刊労働法264号147~157頁
河合塁・労働法学研究会報70巻4号18~23頁
遠藤元一・金融・商事判例1566号8~13頁
本多知則・金融法務事情2116号44~56頁
水島郁子・阪大法学69巻1号131~145頁
林史高・ジュリスト1536号82~88頁
北村雅史・金融判例研究29号(金融法務事情2121)66~69頁
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 Yは「法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備したことからすると、人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきであ」り、また「Yにおいて整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY自らが履行し又は上告人の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない」。
 もっとも、「Yは、本件当時、本件法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていた」のであり、法令違反についてグループ会社従業員による申し出があれば「申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される」。
 AのXに対する交際申し入れ、自宅押しかけ行為については、Xが「本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれず、Yは本件相談窓口に対する相談の申出をしていないXとの関係において、上記の義務を負わない」。
 Xの退職後、Xの自宅付近にAが数回自身の自動車を停車する行為については、他の従業員からXのためとしてYに相談の申出がなされたが、「本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、上告人において本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない」こと、「本件申出に係る相談の内容も、Xが退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、従業員Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。しかも、本件申出の当時、Xは、既に従業員Aと同じ職場では就労しておらず」、本件行為が行われてから8箇月以上経過していたことからして、Yの義務違反は認められない。