全 情 報

ID番号 09225
事件名 配転処分無効確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 学校法人原田学園事件
争点 授業割り当てを外された准教授による授業する地位の確認および損害賠償請求が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 学校法人である被告・控訴人Yの設置するD短期大学(本件短大)の准教授である原告・被控訴人Xが、(1)授業をする地位にあることの確認、Xに授業を割り当てず学科事務のみを担当させる旨の業務命令(本件職務変更命令)に従う義務がないことの確認、(2)研究室を使用する地位にあることの確認、研究室明渡しを命じる業務命令に従う義務がないことの確認、Xの研究室使用の妨害予防、(3)本件職務変更命令はXに対するパワハラであり、各命令などは退職強要目的の違法行為であり慰謝料500万円を求めた事案である。
(2)岡山地裁はXの請求(1)(2)の地位確認についてはいずれも確認の利益がなく却下、本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず、本件職務変更命令は、Xの研究発表の自由、教授・指導の機会を完全に奪うもので、しかも、それは平成28年度に限ったものではなく、以後、Xには永続的に授業を担当させないことを前提とするものであるからXに著しい不利益を与えるものであり、本件職務変更命令は無効であるとして、(1)(2)の命令に従う義務がないこと、(3)については慰謝料100万円の限度でXの請求を認容した。Yが控訴。
参照法条 日本国憲法23条
民法709条
民法710条
民事訴訟法134条
労働契約法
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(12)就労請求権・就労妨害禁止
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2018年3月29日
裁判所名 広島高等裁判所岡山支部
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)85号
裁判結果 原判決一部取消自判、附帯控訴棄却
出典 労働判例1185号27頁
労働法律旬報1935号49頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 長谷川珠子・ジュリスト1523号143~146頁
鶴崎新一郎(社会法判例研究会)・法政研究〔九州大学〕86巻1号225~240頁
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(12)就労請求権・就労妨害禁止〕
 「労働は、労働者にとって義務であり、権利ではないから、使用者は、賃金を支払う限り、提供された労働力を利用するか否かは自由であって、原則として労働受領義務はないというべきであり」、「労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利である、いわゆる就労請求権の確認の訴えは、原則として、実体法上、成立し得ない権利ないし法律関係の確認を求めるものとして、確認の利益を欠くというべきである」。授業を行う地位確認は、「Xが、Yとの間で…各授業をすることのできる権利ないし法律関係を有することの確認を求めるものであ」り、「いわゆる就労請求権の確認の訴えに他ならないというべきであり、確認の利益を欠くものとして却下すべきである」。
 「授業をしない義務の不存在確認を求める部分は、授業をする権利があることの確認を求める訴えについて、二重否定を用いて言い換えたにすぎず、論理的には両者は全く同義であるから、本件確認の訴え1と同様に、確認の利益がないというほかない」。
〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 Y1の「これらの一連の業務命令を全体としてみると、実質的には、Xを全ての担当職務から外し、研究室としては不適当なキャリア支援室での就業を命じるものであって、配転命令である本件職務変更命令及び本件研究室変更命令は、業務上の必要性を欠いており、かつ、労働者に対する処遇としても合理性を欠くものであって、Xに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える精神的苦痛を負わせるものであると認められ」、「本件職務変更命令及び本件研究室変更命令は、権利濫用に当たり、いずれも無効というべきものである」。
 「このように、配転命令が無効である場合には、前記のとおり、就労請求権が認められないことからして、配転命令前の就業場所で、配転命令前の業務に従事する権利を有することの確認を求めることはできないが、配転命令後の就業場所で、配転命令後の業務に従事する義務のないことの確認を求めることができるというべきである」。
 「本件職務変更命令及び本件研究室変更命令は、客観的にみれば、一連のものとして、Xを全ての担当職務から外し、研究室として利用することが不適当なキャリア支援室での就業を命じるものであって、業務上の必要性を欠いており、かつ、労働者に対する処遇として合理性を欠くものであり、Xに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える精神的苦痛を負わせるものであると認められ」、「この精神的損害を慰謝するには、100万円が相当であり、その1割に相当する弁護士費用10万円はこれと相当因果関係のある損害と認める」。