全 情 報

ID番号 09244
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 日本ケミカル事件
争点 薬剤師に時間外手当として支払われていた業務手当の適法性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) Y(被告、被控訴人兼附帯控訴人上告人)に雇用され、薬剤師として勤務していたX(原告、控訴人兼附帯被控訴人、被上告人)が、Yに対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働(時間外労働等)に対する賃金並びに付加金等の支払を求める事案である。
(2)東京地裁立川支部はXの一部認容一部棄却したところ、Xが控訴、被告が附帯控訴した。東京高裁は、「定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる」が、本件では「業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを被上告人が認識することができないものであり、業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできない」としてXの請求を一部認容、一部棄却し、Yが上告した。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 2018年7月19日
裁判所名 最高裁第一小法廷
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(受)842号
裁判結果 一部破棄、差戻し
出典 最高裁判所裁判集民事259号77頁
裁判所時報1704号6頁
判例時報2411号124頁
判例タイムズ1459号30頁
労働判例1186号5頁
労働経済判例速報2358号3頁
労働法律旬報1922号70頁
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1523号4~5頁2018年9月
河津博史・銀行法務2162巻12号69頁2018年10月
浜村彰・労働法律旬報1922号6~9頁2018年10月25日
渡辺輝人・労働法律旬報1922号10~15頁2018年10月25日
高仲幸雄・労働経済判例速報2358号2頁2018年11月10日
山崎貴広・LIBRA19巻1号48~49頁2019年1月
中山慈夫・労働法令通信2505号27~30頁2018年12月8日
岩出誠・ジュリスト1529号116~119頁2019年3月
柴田洋二郎・中京法学53巻1・2号47~56頁2019年1月
三笘裕/監修/坂口将馬・ビジネス法務19巻5号55頁2019年5月
池原桃子・ジュリスト1532号76~79頁2019年5月
戸谷義治・季刊労働法265号191~201頁2019年6月
阿部理香・法律時報91巻8号127~130頁2019年7月
岩永昌晃・民商法雑誌155巻3号96~103頁
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
 労働基準法37条は、「労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではなく(前掲最高裁第二小法廷判決参照)、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。
 そして、雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。しかし、労働基準法37条や他の労働関係法令が、当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために、前記3(1)のとおり原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。」
 本件では「Xに支払われた業務手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められるから、上記業務手当の支払をもって、Xの時間外労働等に対する賃金の支払とみることができ」、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、「Xに支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻す」。