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ID番号 09252
事件名 未払賃金等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 イクヌーザ事件
争点 80時間を超える固定残業代契約の適法性などが問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) アクセサリー、靴、ベルト、貴金属製品等の企画、製造、販売等を営むY(被告、被控訴人兼附帯控訴人Yと期間の定めのない労働契約を締結した原告X(原告、控訴人兼附帯被控訴人)が、Yに対し、未払時間外、深夜割増賃金205万0194円並びに遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金205万0194円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2)東京地裁はXの請求を一部認容するにとどめたところ、Xが原判決中の敗訴部分を不服として控訴し、また、Yが敗訴部分を不服として附帯控訴した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給
雑則(民事)/附加金
裁判年月日 2018年10月4日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)5128号/平成30年(ネ)3303号
裁判結果 原判決変更、附帯控訴棄却
出典 労働判例1190号5頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 奥貫妃文・労働法学研究会報70巻20号24~29頁
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕
 本件固定残業代の定めは、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることを内容とするものである。「長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき、通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である」。
 本件について、「本件固定残業代の定めは、控訴人につき少なくとも月間80時間に近い時間外勤務を恒常的に行わせることを予定したものということができ」、「本件雇用契約に係る14か月半の期間中に、Xの時間外労働時間数が80時間を超えた月は5か月、うち100時間を超える月が2か月」あるなど、「このような現実の勤務状況は、Xにつき上記のとおり月間80時間に近い長時間労働を恒常的に行わせることが予定されていたことを裏付けるものであ」り、「以上によれば、本件固定残業代の定めは、労働者の健康を損なう危険のあるものであり、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である」。
〔雑則(民事)/附加金〕
 1か月に80時間を超える時間外労働時間をした場合や深夜労働をした場合には、時間外割増賃金ないし深夜割増賃金の支払を行っていたこと、雇用契約において、基本給のうちの一定額を一定時間に相当する時間外労働の割増賃金に当たる部分として定める場合に、当該一定時間の上限をどのように解すべきかについて、明確な判断基準が確立していたとはいい難いこと等の事情を勘案すると、204万7483円の5割に相当する102万3741円をもって付加金額とするのが相当である。