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ID番号 09264
事件名 各地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 医療法人社団康心会(差戻審)事件
争点 固定残業代込の年俸制医師の割増賃金請求が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(被告、被控訴人、被上告人)が運営する病院に医師として勤務していたX(原告、控訴人、上告人)が、〈1〉Yによる解雇無効を主張して、雇用契約上の権利を有する地位確認、〈2〉未払給与の支払、〈3〉未払賞与の支払、〈4〉時間外の割増賃金438万1892円の支払、〈5〉労働基準法114条に基づき、付加金として上記割増賃金と同額の支払、〈6〉Yによる解雇等につき不法行為が成立すると主張して、損害金として642万0337円の支払を求めた事案である。
(2)差戻し前の第1審(横浜地裁)は、Xの割増賃金の請求について、56万3380円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し、付加金の請求について、11万2334円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し、その余のXの請求をいずれも棄却した。これに対し、Xが控訴し、Yが附帯控訴した。
 差戻し前の控訴審(東京高裁)は、Xの控訴を棄却し、Yの附帯控訴に基づき、差戻し前の原審認容額の弁済供託を理由に原判決中Y敗訴部分を取り消して、同部分に係るXの請求をいずれも棄却した。これに対し、Xは、上告及び上告受理の申立てをした。
 最高裁判所は、上告を棄却し、上告受理の申立てを受理し、上告受理申立ての理由中、割増賃金及び付加金請求に係る部分を除いた部分を排除した上、差戻し前の控訴審の判決中、割増賃金及び付加金の請求に関する部分を破棄し、同部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給
雑則(民事)/附加金
裁判年月日 2018年2月22日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)3304号
裁判結果 原判決一部変更自判、附帯控訴棄却
出典 労働判例1181号11頁
労働経済判例速報2343号16頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
〔賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕
〔雑則(民事)/附加金〕
 「XとYとの間においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった」。「そうすると、本件合意によっては、Xに支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
 したがって、YのXに対する年俸の支払により、Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない(上告審判決)」。
「Yは、割増賃金の額が相当額に上り、その支払を命じられる可能性が高いことを十分に認識することができたことなど、本件に顕れた事情を考慮すれば、Yに対し、付加金として割増賃金の残額と同額である273万1645円の支払を命ずるのが相当である」。