ID番号 | : | 09268 |
事件名 | : | 未払賃金等請求事件(2481号)、地位確認等請求事件(942号) |
いわゆる事件名 | : | 平尾事件 |
争点 | : | 労働協約の効力と賃金請求権 |
事案概要 | : | (1) 貨物自動車運送等を業とする被告(平尾株式会社)の営業所で生コン運送自動車の運転手として勤務してきた原告が、被告と原告所属の労働組合との間で締結された給与・賞与を平成25年8月から12月間20%カットすること及び当該カット分賃金のすべてを労働債権として確認することを内容とする第1労働協約の失効及びその後に締結された同様の内容の第2労働協約(給与・賞与を平成26年8月から12月間20%カット等)の無効を主張し、カットされた給与の支払等を求める事案である。なお、同内容の第3労働協約(給与・賞与を平成27年8月から12月間20%カット等)も締結されている。 (2) 判決は、原告の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働組合法16条 労働基準法24条 |
体系項目 | : | 賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(25) 協約の成立と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 平成28年5月10日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成26年(ワ)2481号/平成27年(ワ)942号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1208号17頁 労働経済判例速報2385号10頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(25) 協約の成立と賃金請求権〕 (1)本件労働協約でいう「カット」は、賃金債権全額の発生は肯定しつつもその20%分について支払いを猶予することを意味すると解される。支払いの猶予である以上いずれは弁済期が到来することになるが、第1労働協約のどこにもそれについての言及はない。このことからすると、弁済期については改めて被告と当該労働組合との間で協議をすることが予定されていると解される。支払い猶予期間が経過した後、協議をするのに通常必要な期間を超えて協議が行われず、何の決定もされない場合は、支払いが猶予された賃金について弁済期が到来すると解すべきである。 (2)本件については、第1協約の期間経過後に、第2労働協約の協議が成立すると同時に第1協約により「カット」された賃金についての協議が成立し、第2労働協約の期間経過後に、第3労働協約の協議が成立すると同時に第1・第2協約により「カット」された賃金についての協議が成立したとみることができる。 (3)原告は、第1労働協約は期間満了により効力を失い、原告の平成26年8月分以降の給与・賞与はもとの水準に戻っており、第2労働協約は個別の労働契約に基づく給与・賞与請求権を原告の同意によらずに一方的に不利益に変更する内容の労働協約であり、しかも原告所属の労組では組合員による職場討議も投票も行われておらず、また第1労働協約第4項で定められた労使協議会も開催されていないことから第2労働協約は無効というべきである(いわゆる有利原則の適用)と主張した。これに対し、裁判所は、賃金の一律20%のカットというのは基準として明確であり、その合理性をただちには否定しがたい。そして何より、この基準は組合員全員に一律に適用されるものであり、特定のあるいは一部の組合員をことさら不利益に取り扱うものではない。ほかに、第2労働協約が労働組合の目的を逸脱して締結されたといえるだけの事情も認められないから、第2労働協約の規範的効力を否定する理由はない。以上のことは第3労働協約についても同じようにいえるから、第3協約も規範的効力を有するというべきである。 |