ID番号 | : | 09278 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 松原興産事件 |
争点 | : | パワハラによる損害賠償と個体側の脆弱性による過失相殺 |
事案概要 | : | (1) トータルアミューズメント施設(パチンコ、ボーリング、ゲームセンター)の経営を目的とする一審被告(株式会社松原興産)の従業員であった一審原告が、上司であった訴外A班長から継続的にパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受けて、うつ病にり患し、退職を余儀なくされたと主張して、一審被告に対し、使用者責任(民法715条)又は債務不履行(安全配慮義務違反・民法415条)に基づき、損害金等の支払を求めた事案である。 原審判決は、パワハラ行為と原告のうつ病との因果関係を認めるとともに、一審原告の個体側の脆弱性を斟酌し民法722条2項の過失相殺を適用して損害金572万3434円を認容したが、一審原告は本件請求の全部認容、一審被告は本件請求の全部棄却をそれぞれ求め、双方が控訴を提起した。 (2) 判決は、一審判決で適用した過失相殺を認めず、一審原告について不法行為に基づく損害金1116万9214円等を認容し、その余は理由として棄却した。 |
参照法条 | : | 民法715条 民法722条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 平成31年1月31日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(ネ)1491号 |
裁判結果 | : | 原判決変更自判 |
出典 | : | 労働判例1210号32頁 |
審級関係 | : | 上告受理申立て(最三小決 令和1年7月2日 不受理) |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 (1)本件パワハラと一審原告のうつ病発症との間には、相当因果関係が認められる。 (2)本件のように、上司からパワーハラスメントを受け、うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求においても、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で考慮することができると解される。 しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格等は多様のものであるところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格等が当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができ、しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するかどうかを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるものである。 したがって、労働者の性格が、上記同様の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、上司からパワーハラスメントを受けて、うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として考慮することはできないというべきである(最高裁判所平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁<電通事件>参照)。そこで、これを本件についてみるのに、本件全証拠によっても、一審原告の性格が、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできない。一審被告の性格等をその脆弱性として、民法722条2項の類推適用により、その損害から減額することは相当ではないというべきである |