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ID番号 09279
事件名 各地位確認等請求事件
いわゆる事件名 国際自動車事件ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件
争点 有期雇用契約の更新についての合理的期待
事案概要 (1) 被告会社(国際自動車事件ほか)との間で雇用契約を締結していたタクシー乗務員である原告ら12名について、被告会社は定年後の有期雇用契約を締結せず、又は雇止めをした。このため、原告らは、定年後の有期雇用契約を締結せず、又は同原告らを雇止めしたことにつき、客観的合理的理由が存在せず無効であるなどとして、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、上記再雇用拒否又は雇止めの日から本判決確定日までの賃金の支払等の支払を求めた。これに対し、被告会社は、定年後の再雇用については、原告ら所属の労働組合らとの間で労働者供給契約を締結し、これに基づいて同組合員の供給を受ける形でのみ行っており、定年後の有期雇用契約締結については被告会社が労働者供給の申込みを行うことが前提であり、これを行うか否かは被告会社の裁量に委ねられているので、供給される労働者には有期雇用契約の更新についての合理的期待が生じる余地がないなどと主張した事案である。
(2) 判決は、原告らのうち7名について、75歳までの雇用契約更新に対する合理的期待を認め、雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び賃金等の支払請求を認めた。
参照法条 民法709条
民法710条
会社法350条
労働契約法19条
職業安定法44条
体系項目 退職/4 定年・再雇用
裁判年月日 平成30年6月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ワ)33919号/平成28年(ワ)40625号/平成29年(ワ)9283号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2444号75頁
労働判例1199号44頁
労働経済判例速報2353号23頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 小西康之・ジュリスト1525号4~5頁2018年11月
江夏大樹・季刊労働者の権利328号79~83頁2018年10月
小俣勝治・労働法学研究会報70巻2号30~35頁2019年1月15日
判決理由 〔退職/4 定年・再雇用〕
(1)本件労働者供給契約は、被告会社が供給の申込みをした供給労働者と被告会社との間で、別途雇用契約が締結されることを当然の前提としているものと認められる。そうすると、本件供給契約に基づく被告会社からの供給申込みが契機となるとしても、原告らと被告会社との契約関係は雇用契約であるから、その限りでは、労働契約法及び労働基準法の適用を否定すべき理由はない。
(2) 上に判示した事情を総合すると、本件供給契約は、契約書の2条2項に「甲(被告)の申込みに応じて」との文言はあるものの、被告に労働者供給を申し込むか否かの自由裁量を与え、申込みがなければ雇用契約が締結、更新されないという内容を合意したものではなく、有期雇用契約の契約期間の終了に伴う更新に当たっては、被告からの労働者供給申込みがされなくとも、他に同契約の更新を妨げる勤怠、健康等の問題がない限り、同契約が更新されるという従前の有期雇用契約の更新手続や定年後の継続雇用の運用等を前提とした契約とみるのが当事者の合理的意思解釈として妥当であり、その旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。そうすると、被告会社と有期雇用契約を締結した労働者は、前判示に係る本件供給契約締結前の運用と同様に、定年後、その希望に応じて、勤怠及び健康等の他に更新を妨げる特段の問題がない限り、有期雇用契約が更新され、継続雇用されることを妨げられるものではなく、当該雇用契約には労契法19条が適用されると解するのが相当である。
(3) 社長の団体交渉における、乗務員の安定的な確保と稼働率の上昇を図るために、定年後の再雇用契約の条件について75歳まで契約更新を可能とする旨の発言以降、定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(労契法19条2号)があると認めるのが相当である。
(4) 定年到達後、被告会社に再雇用された労働者は、75歳までは有期雇用契約が更新されると期待することについて合理的な理由が認められるが、有期雇用契約の更新が一度もされていない原告Bにおいても一度再雇用としての有期雇用契約を締結した以上、契約更新への期待は既に現実化しているといえ、同様に更新を期待する合理的な理由があると認められる。