ID番号 | : | 09287 |
事件名 | : | 職務上義務不存在確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪市(ひげ禁止)事件 |
争点 | : | 身だしなみ基準と人事考課 |
事案概要 | : | (1) 大阪市(被告)の交通局の職員である地下鉄運転士2名(原告)が、ひげを剃って業務に従事する旨の大阪市の職務命令又は指導に従わなかったために人事考課において低評価の査定を受けたことが、人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して、①各賞与(勤勉手当)に係る本来支給されるべき適正な額との差額等、②国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として、それぞれ慰謝料及び弁護士費用の各支払を求める事案である。 (2) 判決は、①の賞与請求を棄却したが、②については、原告らは、上司から長年にわたり生やしていたひげを、意に反して剃らなければならない旨の心理的圧迫を受けるとともに、現に適正かつ公平に人事評価を受けることができなかったことにより、精神的苦痛を受けたことが認められるとして、国賠法に基づき各原告に対する慰謝料20万円、弁護士費用2万円を認めた。 |
参照法条 | : | 国家賠償法1条 労働契約法 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/服務規律 |
裁判年月日 | : | 平成31年1月16日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成28年(行ウ)74号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1214号44頁 労働経済判例速報2372号17頁 労働法律旬報1941号53頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約―労働契約上の権利義務―服務規律〕 (1)交通局において、従前から乗務員に対し、服装の整正や容姿の端正を求めていることには正当な理由があると認められ、ひげについても、清潔感を欠くとか、威圧的印象を与えるなどの理由から、社会において、広く肯定的に受け容れられているとまではいえないのが我が国における現状であることに鑑みると、窓口において市民や利用者と対応する職員はもとより、業務中に利用者に対応する機会のある運転士を含む地下鉄乗務員に対しても、本件身だしなみ基準のように、「整えられた髭も不可」として、ひげが剃られた状態を理想的な身だしなみとする服務上の基準を設けることそれ自体には一応の必要性ないし合理性があると認められる。もっとも、〈1〉地下鉄運転士がひげを生やしていることが、直接的に、その本来的な業務である地下鉄の安全かつ的確な運行に支障を生じさせるものとまではいえないこと、〈2〉ひげを生やすことが、上記のように社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえないとしても、市民や乗客においてひげを嫌悪することも、また個人の嗜好に基づくものであるという面も否定できないこと、以上の点に鑑みると、地下鉄運転士に対して、職務上の命令として、その形状を問わず一切のひげを禁止するとか、単にひげを生やしていることをもって、人事上の不利益処分の対象とすることは、服務規律として合理的な限度を超えるものであるといわざるを得ない。 (2)平成25年度、平成26年度の原告らに対する人事考課において、原告らがひげを生やしていたことが、主要な減点要素として考慮されたものであると認めるのが相当である。そうすると、ひげを生やす自由の性質及び本件身だしなみ基準の位置付け、人事考課シートの具体的な記載内容等を踏まえると、上記評価は、人事考課における使用者としての裁量権を逸脱・濫用するものであるといわざるを得ない。 本件身だしなみ基準の趣旨目的、本件各考課の内容及びひげを生やすか否かは個人的自由に関する事項であることに鑑みると、本件各考課の内容については、原告らの人格的な利益を侵害するものであり、適正かつ公平に人事評価を受けることができなかったものであって、国賠法上違法であると評価するのが相当である。 |