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ID番号 09290
事件名 職務上義務不存在確認等請求控訴事件(30号)、同附帯控訴事件(66号)
いわゆる事件名 大阪市(ひげ禁止)事件
争点 ひげを理由とする不当な人事評価
事案概要 (1) 本件は、一審被告(大阪市)が設置していた地方公営企業である大阪市交通局(以下「交通局」という。)の職員として地下鉄運転業務に従事していた一審原告らが、一審被告に対し、一審原告らは、ひげを剃って業務に従事する旨の被告の職務命令又は指導に従わなかったために、平成25年度及び平成26年度の各人事考課において低評価の査定を受けたが、上記職務命令等及び査定は、原告らの人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して、〈1〉任用関係に基づく賞与請求として、上記査定を前提に支給された各賞与(勤勉手当)に係る本来支給されるべき適正な額との差額等、〈2〉国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として、それぞれ慰謝料及び弁護士費用等の各支払を求める事案である。
(2) 原判決は、〈1〉の賞与請求については棄却し、〈2〉については、国賠法上の違法があったとして、慰謝料(各20万円)、弁護士費用(各2万円)を認めた。このため、敗訴部分を不服とする一審被告が本件控訴を提起し、一審原告らが本件各附帯控訴を提起した。一審原告らは、当審において、〈1〉の予備的請求として、国賠法1条1項に基づき、各差額と同額の損害賠償金の支払を求める訴えを追加した。
(3)判決は、いずれの請求も棄却した。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/国等に対する損害賠償請求
裁判年月日 令和1年9月6日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(行コ)30号/平成31年(行コ)66号
裁判結果 控訴、各附帯控訴棄却
出典 労働判例1214号29頁
労働経済判例速報2393号13頁
労働法律旬報1948号70頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 確定
評釈論文 谷真介・労働法律旬報1948号45~46頁2019年11月25日
谷真介・季刊労働者の権利334号110~113頁2020年1月
井上将宏・民主法律時報558号1~2頁2019年10月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/国等に対する損害賠償請求〕
(1)一審原告らは、当審においても、一審原告らにはひげを生やしていたこと以外には減点されるべき要素はないから、公正な人事考課がされていれば被控訴人らの相対評価区分は第3区分となるはずであった旨主張する。しかし、交通局の人事考課制度における相対評価は、同一の職種・職位レベルで、同一の第2次評価者が評価した範囲を基本として確定された実施範囲内で、第2次評価における絶対評価点が高い者から順に、第1区分から第5区分に振り分けられるものであり、各区分の割合は予め定められている。したがって、被控訴人らについて絶対評価で3点が付与されたとしても、それにより直ちに、相対評価で第3区分にされていたとは認めることはできない。よって、一審原告らの上記主張は採用することができない。
(2)国賠法に基づく損害賠償請求権の有無(当審で追加された請求)について一審原告らは、違法な本件各考課により、一審原告らの相対評価区分が第3区分とされた場合の勤勉手当の額と実際の支給額との差額相当額の損害を被った旨主張する。しかし、本件各考課において一審原告らがひげを生やしていることが考慮されなかったとしても、相対評価で第3区分にされていたとまで認めることができないことは、(1)のとおりである。よって、損害の発生を認めることができず、一審原告らの国賠法1条1項に基づく勤勉手当差額相当額の損害賠償請求はいずれも理由がない。
(3)当裁判所も、本件身だしなみ基準は、職務上の命令として一切のひげを禁止し、又は、単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものとまでは認められず、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものであること、一定の必要性及び合理性があることからすれば、本件身だしなみ基準の制定それ自体が違法であるとまではいえないものと判断する。
(4)当裁判所も、C運輸長の被控訴人Bに対する平成24年12月21日の面談の際の発言は国賠法上違法であるが、その他の上司の発言には国賠法上の違法性があるとは認められないものと判断する。
(5)当裁判所も、本件各考課及びC運輸長の一審原告Bに対する発言により、一審原告らが心理的圧迫や精神的苦痛を受けたこと、一審原告らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ20万円、弁護士費用としてはそれぞれ2万円が相当であるものと判断する。