全 情 報

ID番号 09292
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本郵便(大阪)事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 第一審被告(日本郵便株式会社)の時給制契約社員又は月給制契約社員として有期労働契約を締結して郵便局で郵便配達等の業務に従事している第一審原告ら(8人)が、第一審被告の正社員との間で、年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)等に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、第1審被告に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。
 第二審判決は、年末年始勤務手当、祝日給、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇については不合理な相違があるとし不法行為に基づく損害賠償を命じ、扶養手当については不合理と認められないとした。また、その余の労働条件については不合理とは認められないとした。
(2) 本判決では、年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当の相違は不合理と認め、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより財産的損害を受けたものということができるとした。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差
裁判年月日 令和2年10月15日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(受)794号等
裁判結果 一部棄却、一部破棄差戻し
出典 裁判所時報1754号5頁
労働判例1229号67頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・労働判例NO.1228号5頁
判決理由 〔労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差〕
(1)年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、本件契約社員にも妥当するものである。そうすると、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
 したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(2)年始期間の勤務に対する祝日給は、特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて、その代償として、通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解される。本件契約社員は、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれており、年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当するというべきである。そうすると、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
 したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で、本件契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(3)扶養手当は、長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有するものである。扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものというべきである。
 したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(4)夏期冬期休暇は、有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ、本件契約社員である第1審原告らは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。