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ID番号 09293
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 本件は、第一審被告(学校法人大阪医科薬科大学)のアルバイト職員として有期労働契約を締結して勤務していた第一審原告が、第一審被告の無期契約労働者との間で、各労働条件(基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置)に相違があることは労働契約法20条に違反すると主張して、(ア)①主位的には無期雇用職員と同様の労働条件が適用されることを前提として、②予備的には労働契約法20条に違反する労働条件を適用することは不法行為にあたるとして、無期雇用職員との差額賃金等の支払、(イ)第一審被告が第一審原告に対して労働契約法20条に違反する労働条件を適用していたことは不法行為にあたるとして、慰謝料等の支払を求めた事案である。
原判決(平成30年1月24日 大阪地裁)は、第一審原告の請求をいずれも棄却した。これに対し、第一審原告が控訴した。
(2)判決は、基本給、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、附属病院の医療費補助措置については、不合理であるとは認められないとしたが、賞与、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金については不合理な相違があるとして、不法行為に基づく損害賠償を命じた。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差
裁判年月日 平成31年2月15日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)406号
裁判結果 原判決変更
出典 判例タイムズ1460号56頁
労働判例1199号5頁
労働経済判例速報2374号3頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1530号4~5頁2019年4月
野川忍・法律時報91巻5号99~105頁2019年5月
谷真介・季刊労働者の権利330号87~92頁2019年4月
沼田雅之・労働法律旬報1938号6~16頁2019年6月25日
谷真介・労働法律旬報1938号29~33頁2019年6月25日
男澤才樹・労働法令通信2522号19~22頁2019年6月8日
増田陳彦・労働経済判例速報2374号2頁2019年5月10日
本久洋一・季刊労働法266号232~233頁2019年9月
小宮文人(労働判例研究会)・法律時報91巻13号258~261頁2019年12月
野川忍(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1539号125~128頁2019年12月
判決理由 〔労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差〕
  基本給、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、附属病院の医療費補助措置については、不合理であるとは認められないとしたが、以下のとおり賞与、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金については不合理な相違があるとして、不法行為に基づく損害賠償を命じた。
(1)賞与については、第一審被告の賞与が賞与算定期間に在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様に第一審被告に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない。契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、第一審原告の採用時期に近接した時期(平成25年4月1日)に採用された正職員と比較対照し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。
(2)夏期特別有給休暇については、第一審被告における夏期特別有給休暇が、一般的な夏期特別休暇とその趣旨(わが国の蒸し暑い夏においては、その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく、休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせること、いわゆる旧盆の時期には、お盆の行事等で多くの国民が帰省し、子供が夏休みであることから家族旅行に出かけることも多いことなど)を異にするとうかがわせる事情はない。アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は、職務の違いや多少の労働時間(時間外勤務を含む。)の相違はあるにせよ、夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くない。そうであれば、少なくとも、第一審原告のように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない。
(3)業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金については、正職員には、私傷病で欠勤した場合、6か月間は賃金が全額支払われ、6か月経過後は、休職が命ぜられた上で休職給として標準賃金の2割が支払われる。しかし、アルバイト職員には、そのような補償はなく、休職規程の適用もない。この相違については、フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきであるとした上で、当然に長期雇用が前提とされているわけではないことを勘案し、私傷病による賃金支給につき1か月分、休職給の支給につき2か月分(合計3か月、雇用期間1年の4分の1)を下回る支給しかしないときは、正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきである。