全 情 報

ID番号 09294
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 本件は、第一審被告(学校法人大阪医科薬科大学)のアルバイト職員として有期労働契約を締結して勤務していた第一審原告が、第一審被告の無期契約労働者との間で、各労働条件(基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置)に相違があることは労働契約法20条に違反すると主張して、(ア)①主位的には無期雇用職員と同様の労働条件が適用されることを前提として、②予備的には労働契約法20条に違反する労働条件を適用することは不法行為にあたるとして、無期雇用職員との差額賃金等の支払、(イ)第一審被告が第一審原告に対して労働契約法20条に違反する労働条件を適用していたことは不法行為にあたるとして、慰謝料等の支払を求めた事案である。第一審(平成30年1月24日大阪地裁)は、第一審原告の請求をいずれも棄却したが、第二審(平成31年2月15日大阪高判)では、基本給、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、附属病院の医療費補助措置については、不合理であるとは認められないとしたが、賞与、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金については不合理な相違があるとして、不法行為に基づく損害賠償を命じた。
(2)最高裁は、賞与、私傷病に係る上告受理申立てのみを受理し、いずれの労働条件の相違も不合理と認められるものに当たらないとした。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差
裁判年月日 令和2年10月13日
裁判所名 最三小
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(受)1055号...等
裁判結果 一部変更、一部棄却
出典 裁判所時報1753号4頁
労働判例1229号77頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・・労働判例NO.1228号5頁
判決理由 〔労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差〕 (1)労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。
(2)賞与は、その支給実績に照らすと、第1審被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められ、正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
 そして、第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことは否定できない。
 さらに、教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。また、アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については、教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下、職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
 そうすると、第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて、教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば、本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
(3)第1審被告が、正職員休職規程において、私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。
 教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったこと、教室事務員である正職員が、極めて少数にとどまり、他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについて、教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したこと、職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたこと、アルバイト職員は長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことなどを理由に、教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。