ID番号 | : | 09296 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | メトロコマース事件 |
争点 | : | 有期雇用労働者の不合理な待遇 |
事案概要 | : | (1) 本件は、第一審被告(株式会社メトロコマース)の契約社員Bとして有期労働契約を締結して東京地下鉄株式会社の駅構内の売店で販売業務に従事している第一審原告ら(4人)が、第一審被告の正社員のうち上記売店業務に従事している者と第一審原告らとの間で、各労働条件(本給及び資格手当、住宅手当、賞与、退職金、褒賞、早出残業手当)に相違があることは労働契約法20条又は公序良俗に違反していると主張して、第一審被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、正社員であれば支給されたであろう賃金等と第一審原告らに支給された賃金等との差額に相当する損害賠償金等の支払を求めた事案である。 第一審判決(平成29年3月23日 東京地裁)は、第一審原告1人の請求のうち不法行為に基づく損害賠償請求の一部(早出残業手当)を認容したが、その余の請求及び他の第一審原告らの各請求をいずれも棄却した。 第二審判決(平成31年2月20日 東京高裁)は、本給及び資格手当、賞与については、不合理と認められないとしたが、以下のとおり住宅手当、退職金制度、褒賞、早出残業手当については不合理な相違があるとて、不法行為に基づく損害賠償を命じた。これに対し、第一審被告、第一審原告らが上告・上告受理申立てをした。 (2) 最高裁は、退職金以外の上告受理申立てを不受理とし、退職金については不合理と認められるものに当たらないとした。 |
参照法条 | : | 労働契約法20条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差 |
裁判年月日 | : | 令和2年10月13日 |
裁判所名 | : | 最三小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(受)1190号 |
裁判結果 | : | 一部変更、一部棄却 |
出典 | : | 裁判所時報1753号7頁 労働判例1229号90頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 水町勇一郎・労働判例NO.1228号5頁 |
判決理由 | : | (1)労働契約法20条は,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。 (2)第1審被告の退職金は,職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。 (3)正社員と契約社員Bの職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があったことが否定できない。売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したこと、第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたことについては,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。 (4)第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。 |