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ID番号 09300
事件名 損害賠償等請求各控訴事件
いわゆる事件名 一般財団法人あんしん財団事件
争点 広域配転の違法性などが問われた事案
事案概要 (1) 認可特定保険業者である第一審被告Yの職員である第一審原告X1が、配転命令を受けたこと、これと同時に降格して減給されたこと、その後休職して復職した際に管理職から一般職に降格して更に減給されたことがいずれも第一審被告の不法行為に当たると主張して、また、第一審原告X2、X3、X4、X5ら(以下「第一審原告X2ら」という。)が、内勤の事務職から業務推進職(営業職)又は外勤職に職種を転換する旨の業務命令を受け、その後の営業成績不振を理由として行われた転居を伴う配転命令及びこれに先立ち行われた本件配転内示並びに本件配転命令後の各降格処分は、いずれも退職強要を目的とした違法な人事権の行使であるなどと主張して、不法行為による損害賠償を求めた事件である。
原判決においては、第一審原告X1の請求を棄却し、第一審原告X2、X3、X4、X5については、配転命令は人事権の濫用に当たるなどとして、精神的苦痛に対する慰謝料の損害賠償を認容したため、第一審被告及び第一審原告X1がそれぞれ敗訴部分を不服として控訴をした。
(2) 判決は、原判決で認容された部分も含め、第一審原告らの各請求はいずれも理由がないとした。
参照法条 民法709条
労働契約法3条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 平成31年3月14日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)1426号
裁判結果 原判決一部取消、一部棄却
出典 労働判例1205号28頁
労働経済判例速報2379号3頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 緒方彰人・労働経済判例速報2379号2頁2019年6月30日
小宮文人・季刊労働法268号218~219頁2020年3月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
(1)一審原告X1に対する配転命令及び配置転換に伴う降格及び減給処分、復職時の降格及び減給についてはいずれも違法なものとは認められない。
(2)一般に、配置転換の内示は、使用者の労働者に対する人事権の行使としての配転命令に先立ち、転勤を受諾するかどうかについて検討する機会を与えるための事前の告知であり、これによって人事異動の効力を生ずるものではなく、その後に異動計画が撤回ないし変更される余地を残しているものと解されるから、本件配転内示により一審原告X2らが受けたと主張する精神的苦痛は、本件配転命令が発令された場合、異動先の事業所に通勤可能な場所へ転居するか、転勤を拒否し、懲戒処分等の対象となるかの選択を迫られることへの不安や恐怖などであったものと認められる。
 しかるに、内示が配転命令の撤回ないし変更の可能性を留保したものであることは前示のとおりであり、一審被告においても、転居を要する内示を受けた職員が配置転換を拒否し、転勤を拒むことのできる正当な理由(就業規則16条1項)の有無を審査した事例や、転勤に対する配慮が検討された事例のあることが認められるから(書証略、弁論の全趣旨)、仮に、一審原告乙1らが本件配転内示後に転勤を拒むことのできる正当な理由を示して人事部、所属長等に相談すれば、上記の事例と同様の対応がされた可能性を否定できないところ、同一審原告らが所属長や人事部等に対して上記の相談等をした形跡はない。
(3)ひるがえって、一審原告X2らは、一審被告から、KSD事件後の経営危機を克服し、認可特定保険事業を継続するため、年功序列を排して優秀な人材を積極的に登用し、人材育成の観点及び事故防止の観点からの配置やローテーションを行うこと、業務推進職の職員は男女を問わず転居を伴う配置転換の可能性があることを示唆されており、かつ、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の趣旨に則り、勤務地について専ら女性であることを理由とした優遇はしないとの告知を受けていたものと認められることからすれば(証拠略、弁論の全趣旨)、一審原告X2らの自分が異動対象者になるとしても転居を伴う配置転換の内示を受けることはないとの期待に合理的な根拠があるとはいえない。
(4)以上に加えて、前示のとおり、本件における一審原告X2らの異動先の選択については、業務推進職としての業績低迷の原因が同一審原告らの置かれていた環境による部分もあったことを否定できない以上、同一審原告らの異動先の選択に合理性がないとまではいえず、一審被告に対し、平成25年度自己申告書に記載するなどして転居を伴う異動はできない旨の申告をしていたのは一審原告X3のみであるところ、同一審原告の自己申告書の記載も、祖母がうつ(暴れる)であり、母は働きに出ていて、父は腰椎圧迫骨折のため過度な看護はできないという抽象的なものにとどまり、要介護度や介護の状況等に関する具体的な記載はなく、他に同居の妹(無職・画家)がいることを加味すると、一審被告が、一審原告X3に転居を伴う配置転換を命じても祖母の介護に支障を来すことはないと考えたとしても不自然不合理ではない。
 そうすると、一審原告X2ら全員に対して本件配転内示をしたことが一審被告による人事権の濫用として違法なものであると認めることはできない。