全 情 報

ID番号 09301
事件名 配転命令無効確認等請求事件(128号)、労働契約上の地位確認等請求事件(670号)
いわゆる事件名 アルバック販売事件
争点 自宅待機命令の違法性、解雇権濫用
事案概要 (1)ア 甲事件は、被告と雇用契約を締結した原告が、被告が行った自宅待機命令、姫路営業所への配転命令、新給与制度を導入した就業規則の変更及び新しい就業規則に基づく原告の査定は、いずれも業務上の必要性がなく、不当な動機、目的に基づくものであるなどと主張し、まず、(ア) 配転命令が違法、無効であるとして、姫路営業所で勤務する義務がないことの確認、(イ)①雇用契約に基づき、平成24年7月25日から被告から解雇された平成27年3月までに支払われた賃金及び賞与と本来支払われるべき賃金及び賞与との差額の支払等、②被告が不当な自宅待機命令及び配転命令を行ったこと等による慰謝料等の支払、加えて、(ウ)上記(イ)の請求と選択的に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、平成24年7月25日から甲事件訴訟提起前となる平成26年11月までに支払われた賃金及び賞与と、本来支払われるべき賃金及び賞与との差額に相当する損害等の支払を求めた事案である。
イ 乙事件は、原告が、被告が平成27年3月9日に行った解雇は、客観的合理的理由がなく無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、被告に対し、雇用契約に基づき、平成27年3月の賃金の未払分、同年4月以降の賃金及び賞与の支払等の支払を求めた事案である。
(2) 判決は、甲事件については、本件配転命令の無効確認を求める訴えは配転先の姫路営業所が閉鎖されたことを理由に訴えを却下し、既に支払われた賃金及び賞与と本来支払われるべき賃金及び賞与との差額の支払等、違法な自宅待機命令及び配転命令による慰謝料等の支払、乙事件については、解雇は無効であるとした上で、雇用契約に基づく賃金及び賞与の支払等など約2659万円及び遅延利息の支払いを命じた。
参照法条 労働契約法10条
労働契約法16条
労働基準法24条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/3 配転命令権の濫用
賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(3) 休職処分・自宅待機と賃金請求権
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与
賃金 (民事)/3 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(10) 自宅待機命令・出勤停止命令
裁判年月日 平成31年3月18日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)128号/平成27年(ワ)670号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(128号)、一部認容、一部棄却(670号)
出典 労働判例1211号81頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
(1)被告は平成29年6月に姫路営業所を閉鎖したから、本件配転命令が有効か無効かにかかわらず、原告には被告の姫路営業所において勤務する雇用契約上の義務がなくなったことが認められ、原告の甲事件請求アについて、確認の利益を認めることができないため、本件配転命令の無効確認を求める訴えは、不適法となり、その訴えを却下せざるを得ない。また、本件配転命令が権利濫用に当たるというべき特段の事情は見当たらない。
〔賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(3) 休職処分・自宅待機と賃金請求権〕
(2)管理職手当が残業代として支払われている性質であるとしたら、月あたり何時間に相当する残業代かが分かる事情が存在する必要があるところ、管理職手当が何時間の残業代に相当するのかを認めるに足りる客観的な証拠は存在しない。また、実際の残業時間に応じて支払われるものではなく、あくまでみなし残業代相当とのことであるから、実際には残業時間が皆無であっても一律支払われる性質のものであるといえる。そうすると、自宅待機期間中であって残業がないことを理由に、管理職手当の不支給を正当化できるものではない。本件自宅待機中の管理職手当の不支給は、労働基準法24条に違反し違法である。
〔就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与〕
(3)基本給がいくらとなるかは、管理職給与体系表で明らかにされているのみで、就業規則には定められていないところ、原告は、管理職給与体系表を含めた新賃金制度について合意をしていない。したがって、本件就業規則変更が有効であることを前提としても、管理職給与体系表に基づき、被告が原告の基本給を減額することについては根拠がなく、減額は違法である。
〔賃金 (民事)/3 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
(4)平成24年の冬季賞与、平成25年夏季賞与について自宅待機命令などにより実質的に業務を行うことができなかったことを理由として、5段階評価で最も下の評価であるE評価とすることは、不合理であるといわざるを得ないとし、標準であるC査定とすることが相当である。
 〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕
(5)本件解雇は、客観的に合理的な理由があるとは認められず、かつ、社会通念上相当であるとも認められない。よって、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効である。
 なお、一つ一つの事実が解雇に相当するほど重大なものであるとは認めがたい上、その大半が約1年半前から2年前までの事実であるにもかかわらず、その間解雇を予定している旨を原告に対して明確に示す注意、指導等をした事実は一切認められないのであるから、前上記結論に変わりはない。
〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(10) 自宅待機命令・出勤停止命令〕
(6)姫路営業所の人員に空きがある状態であるにもかかわらず、また、自宅待機期間中に、会社の物は全て会社に置いていくように伝えて営業経験がない対象製品の勉強をする機会を与えていないにもかかわらず、無期限での自宅待機命令をすることには、正当な理由がないと言わざるを得ない。さらに、本件自宅待機命令は、原告に退職を促すという不当な目的でされたものであることが疑われる。以上からすれば、被告による本件自宅待機命令は、その裁量権を逸脱して違法であるというべきであり、原告に対する不法行為を構成する。