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ID番号 09308
事件名 賃金減額無効確認等請求事件
いわゆる事件名 キムラフーズ事件
争点 賃金減額の有効性、パワハラによる不法行為
事案概要 (1) 本件は、被告(株式会社キムラフーズ)に勤務する原告が、被告に対し、〈1〉基本給について1万円、職務手当について5万円及び調整手当について1万円をそれぞれ減額されたことについて、無効であると主張して、減額前の賃金の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認及び労働契約終了時までの間の差額賃金の支払、〈2〉賞与額を不当に減額されたことにより、本来支給されるべき賞与額との差額分の損害を受けたとして、又は精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払、〈3〉被告代表者及び被告従業員からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為責任に基づく損害賠償金等の支払をそれぞれ求める事案である。
(2) 判決は、賃金減額の無効による差額支払、減額前の賃金の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認、パワハラによる不法行為責任に基づく損害賠償を認容した。
参照法条 労働契約法8条
民法709条
会社法350条
民法715条
体系項目 賃金 (民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(23) 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 平成31年4月15日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)1567号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1205号5頁
労働経済判例速報2385号18頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 確定
評釈論文 皆川宏之(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1550号132~135頁2020年10月
判決理由 〔賃金 (民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
(1)本件賃金減額は、原告の同意もないまま、就業規則等の明確な根拠もなく行われたものであるといえる。本件賃金減額は無効であるといわざるを得ない。
(2)確認の利益は、判決をもって、法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために有効かつ適切である場合に認められるものである。本件においては、原告の賃金減額の無効を前提として賃金の差額の支払を求める給付訴訟が併せて提起されているが、従前の経過や被告代表者の態度に鑑みると、被告が、今後も減額の内訳の変更も含めて賃金減額を繰り返す蓋然性が相当程度あり、本件賃金減額に係る給付請求が差額分の支払を求めるに止まっていることを勘案すると、一定の賃金(その内訳を含めて)の支払を受ける労働契約上の地位を有することを確定することは、継続的契約関係である労働契約における本件賃金減額に係る紛争を解決する方法として有効適切であるといえるから、上記確認の訴えの利益はあるというべきである。よって、本件訴えは適法というべきであり、前記認定によれば、上記確認の訴えはこれを認めることができる。
〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(23) 使用者に対する労災以外の損害賠償〕
(3)ア パワハラ行為については、被告代表者が、原告のミスを怒鳴って肘で原告の胸を突いた行為、原告の背中を叩いた行為、原告の背中を叩いた行為は、いずれも原告の身体に対する暴行であり、これらの行為に及ぶ必要性があったとは認められないから、原告に対する違法な攻撃として、不法行為に該当する。
イ 被告代表者は、業務指導の範囲を超えて、原告の名誉感情を害する侮辱的な言辞や威圧的な言動を繰り返したものといわざるを得ず、原告の人格権を侵害する不法行為に当たるというべきである。
ウ 被告の従業員Bが、原告に対し、「作業は1回しか教えない、社長に言われている」と発言したり、被告代表者から、お前は休んでいいが、原告は休ませるなと言われている旨や原告は給料が高いから厳しく教えろ、途中の休憩は取らせるなと言われている旨等告げた事実についても、被告代表者によるトイレ休憩をとらせないよう言った指示と相俟って原告の人格権を侵害する行為といえ、不法行為に当たるというべきである。
エ 被告代表者の行為は、原告に対する暴行及び原告に対する人格権を侵害する行為であり、不法行為に当たるから、被告は、会社法350条に基づき、原告が受けた身体的及び精神的苦痛について賠償責任を負う。また、被告の従業員Bの行為も、原告の人格権を侵害する行為であり、不法行為に当たるから、被告は、民法715条に基づき、原告が受けた精神的苦痛について賠償責任を負う。
(4)賞与の減額については、原告の勤務成績についても、作業速度や成果の点において芳しくないとしても、原告に被告やその従業員に大きな損害を与えるような事故や失敗があったことは認められないことなども考慮すると、他方で、原告の本件賃金、賞与の減額後の年収額が、なお被告における他の正社員の各年収額を上回っているという被告における従業員全体の賃金の実情があることを斟酌しても、本件賞与減額のうち、少なくとも、原告が平成26年以前に支給された賞与の最低額の2分の1を下回り、かつ他の正社員の賞与支給率のうちの最低の支給率をも下回った平成28年夏季賞与以降の賞与の査定については、これを正当化する事由を見出しがたいというべきである。
  加えて、前記認定のとおり、被告代表者が、原告の賃金額等に強い不満を抱き、2回に亘って原告の賃金を減額し、暴言等のパワハラ行為を繰り返していることやその発言内容等をも併せ考慮すると、被告代表者が、原告の平成28年夏季賞与以降の賞与の算定に当たり、公正な査定を行わず、恣意的にこれを減額した意図も推認される。
  以上によれば、被告は、平成28年夏季賞与から平成29年年末賞与までの原告の賞与については、裁量権を濫用して、これを殊更に減額する不公正な査定を行ったことが認められ、これは、被告が査定権限を公正に行使することに対する原告の期待権を侵害したものとして不法行為が成立するというべきである。