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ID番号 09317
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 井関松山製造所事件
争点 無期契約労働者と有期労働者との間の手当差額の不合理性が問われた事案
事案概要 (1) 農業用機械器具の製造及び販売等を事業目的とする被告Yとの間で期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結して就労している従業員(有期契約労働者)である原告Xらが、Yと期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している従業員(無期契約労働者)との間に、賞与、家族手当、住宅手当及び精勤手当(本件手当等)の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して、Yに対し、〈1〉当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、原告らには無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用されることになるとして、当該就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認、〈2〉本件手当等については、主位的に、同条の効力により原告らに当該就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働契約に基づく賃金請求として、予備的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原判決は、本件手当等のうち、家族手当、住宅手当及び精勤手当については労働契約法20条に違反するが、賞与については同条に違反しないとした。これに対し、一審原告、一審被告とも控訴したが、判決は、一審原告、一審被告のいずれの控訴も棄却した。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 令和1年7月8日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)145号
裁判結果 各控訴棄却、追加請求一部認容、一部棄却
出典 労働判例1208号25頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 橋本陽子・ジュリスト1537号4~5頁2019年10月
中山達夫(判例実務研究会)・労働法令通信2544号25~28頁2020年2月8日
岡正俊・経営法曹205号101~104頁2020年9月
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
(1)賞与の額につき少なくとも正社員個人(無期契約労働者)の業績(一審被告の業績に対する貢献)を中心として支給するものとまではいい難く、労務の対価の後払いの性格や上記のような人事施策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上策等の性格を有していることがうかがわれるものといえる。
 これらの事情(賞与の額につき少なくとも正社員個人の業績を中心として支給するものとまではいい難く、労務の対価の後払いの性格や人事施策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上策等の性格を有していること)は、いずれも労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮されるべき事柄であることはいうまでもなく、加えて、無期契約労働者と有期契約労働者とでは、負うべき職務責任の範囲等も異なること、また、有期契約労働者についても一律に寸志を支給することとしており、更に組長以上の職制として昇進させる途を開いており、また、中途採用制度により、無期契約労働者と有期契約労働者との地位は常に固定しているものではなく、一定の流動性も認められることなど有期契約労働者に対する人事政策上の配慮をしていることも認められることからすると、有期契約労働者に対しては賞与ではなく、寸志の支給に代えるとした一審被告の経営判断には相応の合理性を認めることができる。
(2)一審被告は、当審においても、原審と同旨の主張をするが、家族手当、住宅手当及び精勤手当について、その支給の定め等に照らして所論のような人事政策上の考慮に基づくものとまでは認め難いし、殊に精勤手当については、補正の上で引用する原判決が認定説示するとおり、月給日給者かつ当該月皆勤者のみに所定の額が支給され、月給者には支給されていないことからすると、月給者に比較して収入が不安定になりがちな月給日給者に対する配慮に出たことがうかがわれるのであって、少なくとも所論のようなライン工への配慮によるものとはにわかに認め難いし、また、精勤手当の支給につき、無期契約労働者がより難易度の高い定常業務に従事していることによる見返り等であることを認めるに足りる証拠もないことを指摘することができる。