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ID番号 09322
事件名 割増賃金等請求事件
いわゆる事件名 狩野ジャパン事件
争点
事案概要 (1) 本件は、麺類の製造及び販売等を目的とする株式会社狩野ジャパン(被告)の労働者であった原告が、被告に対し、〈1〉平成27年6月1日から平成29年6月30日までの間の労働につき、時間外、休日及び深夜の割増賃金並びに所定労働時間を超えた法定労働時間内の労働(所定休日労働を含む、以下「法内残業」ということがある。)に対する賃金に未払いがあると主張して、その未払賃金の支払を求めるとともに、〈2〉労働基準法114条に基づいて、付加金の支払を求め、また、〈3〉被告により、苛酷な長時間労働を長期間恒常的にさせられるなどして、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づいて、慰謝料等の損害金の支払を求める事案である。
(2)判決は、被告に対し、〈1〉については、職務手当を固定残業代とは認めず 、法内残業に対する未払賃金及び時間外等労働に対する未払割増賃金の合計額である273万8574円と遅延損害金、〈2〉については、未払いの割増賃金と同額の付加金、〈3〉については、慰謝料として30万円、の支払いを命じた。
参照法条 労働基準法37条
労働契約法5条
体系項目 賃金 (民事)/割増賃金/(6) 固定残業給
労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和1年9月26日
裁判所名 長崎地大村支
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)127号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1217号56頁
労働経済判例速報2402号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1539号4~5頁2019年12月
田中勇気・労働経済判例速報2402号2頁2020年2月29日
中川拓・季刊労働者の権利334号114~118頁2020年1月
織田康嗣・LIBRA20巻6号38~39頁2020年6月
判決理由 〔賃金 (民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕
〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/(16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(1) 被告は、職務手当に午前8時30分から午前9時までの30分間と午後5時から午後6時までの1時間の時間外労働の1か月分に関する固定残業代が含まれているとして、職務手当が割増賃金の算定基礎から除外される旨の主張をする。
 被告の賃金規定には、「職務手当は、固定残業の一部として支給するものとする。その額は月額5,000円から最高70,000円までとする。」と定められているのみで、固定残業代部分が何時間分の割増賃金に相当するかは明示されていない。また、「労働条件通知書(兼 労働条件同意書)」及び「狩野ジャパン就業に関して」と題する書面にも、固定残業代部分が何時間分の割増賃金に相当するかは明示されていない。
 以上によれば、職務手当につき、固定残業代部分と能力に対する対価部分とが明確に区分されているということはできないから、職務手当の支払をもって労働基準法37条の定める割増賃金の支払としての効力を認めることはできず、職務手当が割増賃金の算定基礎から除外されるということはできない。
(2) 割増賃金の未払につき、特段合理的な事情は窺われないから、被告に対し、同額の付加金全額の支払を命じるのが相当である。
(3)本件において、原告が長時間労働により心身の不調を来したことについては、これを認めるに足りる医学的な証拠はない。しかしながら、結果的に原告が具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、被告は、安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、原告を心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させた(平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上の時間外等労働、うち平成27年6月、同年9月、同年10月、平成28年4月、平成29年3月及び同年6月は月150時間以上、平成28年4月は月160時間以上の時間外等労働、平成28年1月と平成29年1月においては月90時間以上の時間外等労働)のであるから、原告の人格的利益を侵害したものといえる。
 被告の安全配慮義務違反による人格的利益の侵害により原告が精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推察されるところ、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、上記精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。