ID番号 | : | 09326 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ノーリツ事件 |
争点 | : | 懲戒処分(降格処分)の効力 |
事案概要 | : | (1) 本件は、温水機器の製造販売等を業とする被告(株式会社ノーリツ)の労働者である原告が、業務とは関連性がない資産運用等の私的な目的で証券会社サイトの私的閲覧をしていたことを理由とした平成29年7月21日付けの等級S1からJ2への降格処分が懲戒権を濫用したもので無効であるとして、被告に対し、〈1〉労働契約に基づき、①上記降格処分前の等級S1かつ月額役割給の支払を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②平成29年8月分から平成30年9月分までの、上記降格処分前の賃金(平成30年4月以降の定期昇給予定額を加えたもの)と上記降格処分後の賃金との差額分及びこれに対する遅延損害金の支払、③平成30年10月から本判決確定の日まで毎月25日限り上記降格処分前の賃金(平成30年4月以降の定期昇給予定額を加えたもの)と上記降格処分後の賃金の差額月額1万3720円及びこれに対する遅延損害金の支払、〈2〉上記降格処分が不法行為に当たるとして、不法行為に基づき、慰謝料50万円及びこれに対する遅延損害金の支払、をそれぞれ求める事案である。 (2)判決は、本件降格処分は無効であるとして、原告に対し、本件降格処分前後の賃金の差額分(平成30年4月以降の定期昇給予定額は含まず)及び遅延損害金の支払を命じたが、不法行為には該当しないとして慰謝料の請求は棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用 |
裁判年月日 | : | 令和1年11月27日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(ワ)1636号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用〕 (1)客観的に合理的な理由について 本件私的閲覧は、懲戒処分に関する就業規則78条22号、78条24号、8条に該当し、しかも多数回にわたっていることからすると、本件降格処分には客観的に合理的な理由があるというべきである。 (2)社会通念上の相当性について 原告の私的閲覧は、業務とは関連性がない資産運用等の私的な目的でなされたもので、何ら酌むべき点はなく、その態様は、約5か月半のうち合計86日で、1日当たり15分から17分程度と職務専念からの逸脱の程度は小さくなく、また、その不利益の程度も、役割給が6720円、役職手当が5000円の減額となり、本件降格処分前の原告の役割給が30万6720円で、役職手当が1万円であることからすると、原告の受ける不利益は必ずしも大きいものとはいえない。 しかしながら、本件私的閲覧は、その態様にかんがみても、業務への支障が大きいとまではいうことはできず、しかも、原告の等級がS1(係長相当)であったことからすると、被告に与える影響もそれほど大きいわけではなく、職場秩序を乱すものとまではいうことはできず、また、これによってサーバーセキュリティ上の危険が生じたわけではない。本件降格処分前、原告が懲戒処分を受けたことや原告の勤務成績が不良であったことはうかがえず、原告も被告による注意喚起等で私的閲覧が禁止されていることを認識していたものの、原告に対する個別の注意や指導等はなく、原告に対する処分として、降格処分の他に減給処分もなし得たが、この点について被告内で十分な検討がされたことはうかがえない。 これらの事情を考慮すると、本件降格処分は、いささか重きに失するものであり、社会通念上の相当性を欠くものというべきである。 したがって、本件降格処分は無効というべきである。 (3)不法行為該当性について 本件降格処分は無効であるが、被告人事部では、同時期に判明した本件私的閲覧を含む従業員の私的閲覧について、その回数や態様等を考慮していずれも降格処分にしており、本件降格処分が相当であると判断したことにはやむを得ない事情があるといえるから、被告の従業員に故意のみならず、過失があったということはできない。 したがって、本件降格処分が不法行為に当たるということはできず、原告のこの点に関する主張は採用できない。 |