ID番号 | : | 09336 |
事件名 | : | 残業代等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 木の花ホームほか1社事件 |
争点 | : | 賃金減額の有効性、固定残業代、パワハラ |
事案概要 | : | (1) 被告ら(㈱木の花ホーム及びその親会社であり原告との雇用契約を引き継いだ㈱ソウケン)の従業員であった原告に対し、被告らの代表取締役から、平成26年5月頃、原告に対し、専ら健康状態を理由として暗に退職を促したが、原告がこれを拒否したため、同月頃、口頭で、平成26年5月の支給(同年4月分給与)から、原告の当初の賃金額(58万3333円)について、基本給を32万3700円に増額し、新たに役職手当6万円を支給する一方、職務手当を28万3333円から11万6300円に減額する旨を告げた(本件給与減額〈1〉)、さらに、被告らの代表取締役は、平成27年5月、このままでは被告ら社内の士気にも影響するとして、社長室において、原告に対し、平成27年5月の支給(同年4月分給与)から、原告の上記減額後の賃金(50万円)について、基本給を6万5200円減額し、職務手当を700円増額する旨を告げた。 (2)このため、原告は、 (ア)被告木の花ホームに対し、雇用契約に基づき、①一方的な本件給与減額〈1〉により生じた未払賃金、②職務手当が固定残業代であるとの定めがあったとは認められないなどとして未払の時間外手当(割増賃金)等の支払、 (イ)被告ソウケンに対し、雇用契約に基づき、①一方的な本件給与減額〈2〉により生じた未払賃金等、②未払の時間外手当(割増賃金)等の支払、③労基法114条に基づく付加金等の支払、 (ウ)被告らに対し、被告ら代表取締役からパワハラ被害を受けたとして、共同不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金(パワハラ慰謝料)等の支払 を求めた。 (3) 判決は、本件給与減額〈1〉〈2〉の賃金減額の効果及び職務手当の固定残業代としての支払を否定するなどにより未払い賃金の支払いを命ずるとともに、パワハラ行為(不法行為)を認め、損害賠償100万円を命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 就業規則 (民事)/9就業規則と労働契約 労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務 |
裁判年月日 | : | 令和2年2月19日 |
裁判所名 | : | 宇都宮地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成27年(ワ)第761号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1225号57頁 |
審級関係 | : | 控訴(後、和解) |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則 (民事)/9就業規則と労働契約〕 (1)本件給与減額〈1〉〈2〉とも、就業規則の定めに依拠することなく、当初の賃金額を切り下げるものであったが、被告らの代表取締役が、その減額の根拠について詳細な説明を行った形跡はない。他方、原告が、本件給与減額〈1〉〈2〉に対し格別異議を述べることはなかったが、これに同意する旨の書面は提出していない。 (2)本件給与減額〈1〉は、それ自体、心疾患等による職務遂行能力の低下が原因であることをうかがわせるような内容のものではなく、むしろ、原告に対し長時間に及ぶ残業を期待することが困難になったことによる職務手当(固定残業代)の切り下げを意図したものであることをうかがわせること、また、本件雇用契約だけでなく、被告木の花ホームの就業規則の内容を子細に検討しても、降格に伴う賃金減額の根拠となり得る規定は何処にも見当たらないことなどの事情に照らすと、本件給与減額〈1〉が一種の降格処分に伴って行われたものであるとは認められないし、また、仮に、そうであったとしても、これを可能にする明確な就業規則上の根拠規定が存在しない以上、当初の賃金額を約15パーセントも切り下げる本件給与減額〈1〉は無効と解するのが相当である。 (3)被告ソウケンの就業規則の内容を子細に検討しても、降格に伴う賃金減額の根拠となり得る規定は何処にも見当たらず、本件雇用契約を引き継いだ被告ソウケンと原告との間の雇用契約においては、降格に伴って一方的に賃金が減額されることは予定されていなかったものと解するのが合理的であるから、基本給(能力給)の約20パーセントもの切り下げを伴う本件給与減額〈2〉は、降格処分としても無効であるといわざるを得ない。 〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務〕 (4)被告らの代表取締役の原告に対する一連のパワハラ行為は、心疾患により心臓バイパス手術を受け九死に一生を得て間のない原告に対し、平成25年8月頃から同27年4月頃までの1年8か月に渡って断続的に行われたものである上、その態様は、被告らの代表取締役の意に沿う勤務成績を残せない原告に対し、職務上の地位等に基づく優位性を前提に、侮辱、恫喝、酷い暴言等を浴びせかけ、原告をして退職等の窮地に追い込むことを内容とするものであり、かかるパワハラ行為によって原告は相当大きな精神的苦痛を受け、その影響で精神が不安定になり抑うつ状態に陥って心療内科への通院を余儀なくされたことなどの事情を合わせ考慮すると、かかる原告のパワハラ被害に伴う精神的苦痛を慰謝するに要する損害賠償の額は100万円を下らないものというべきである。 |