ID番号 | : | 09338 |
事件名 | : | 配転命令無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人日本学園事件 |
争点 | : | 配転命令の効力 |
事案概要 | : | (1) 原告は、平成25年4月1日、被告(学校法人日本学園事件)との間で期間の定めのない労働契約を締結し、事務職員として採用された。原告は、学校の教務室において教務事務、広報事務を担当した後、学校の事務室において財務事務(学納金)を担当していたが、被告は平成30年12月17日、平成31年4月1日からの原告が担当する職務を総務の施設の区分である「施設及び設備の保守・点検・補修業務」及び「校内清掃等の用務員業務」とし、勤務場所を本件学校の敷地内の営繕室とする配転命令を原告に告げた。 本件は、原告が、被告の営繕室で勤務するよう命ずる配転命令は権利の濫用に当たり無効であるとして、営繕部で勤務する労働契約上の義務のないことの確認を求める事案である。 (2) 判決は、配転命令には、業務上の必要性が認められ、不当な動機・目的をもってされたものということはできず、原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえないから、本件配転命令は権利の濫用に当たらないとして、原告の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法3条5項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/3 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 令和2年2月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(ワ)7926号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1222号28頁 労働経済判例速報2413号19頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣/3 配転命令権の濫用〕 (1)使用者に配転命令権があったとしても、これを濫用することが許されないことはいうまでもなく、当該配転命令について業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情が存する場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効となる。 (2)本件学校を運営する被告にとって、その構内の美化、生徒の安全確保のための営繕の仕事は欠くことのできない業務であるところ、被告が、定年退職後の嘱託職員等が事実上兼任して事務を担当するような状況について問題視し、平成31年4月1日から専任の事務職員を配置し、責任をもってその業務を担当させる方針を決めたことは、被告の業務の適正な運営のために必要性が高かったといえる。 (3)本件配転命令に業務上の必要性があることは、前記のとおりであるところ、営繕室を担当する事務職員として原告を選任したことについても、他の職員の状況、原告の経歴等に照らして、限られた人員の中から原告を選任したものであり、不当な動機又は目的を認めることはできない。 また、被告において、原告以前にも事務職員が営繕室において勤務していたこともあり、本件配転命令が事務職員に対する配転命令として特異なものともいえない。したがって、本件配転命令について不当な動機、目的でされたことを認めるに足りない。 (4)本件配転命令は、本件学校の構内における勤務場所の変更に過ぎず、給与に変更もなく、営繕室の執務環境も、相応の広さがあり、冷暖房、給湯設備、執務机及びパソコンが備え付けられているなど、他の事務職員の勤務する場所に比して劣悪であるということはできない。また、その業務の内容も、事案決定書の作成等の事務作業であり、精神的又は肉体的な負担が大きいものではない。 本件労働契約において、原告の職種は事務職員であるところ、事務職員として担当すべき業務は、庶務、経理の他、営繕、用務担当も含まれている。原告は、広報業務に携われないことをその不利益として指摘するところ、原告がその経歴から、情報の収集、発信等の広報業務を得意とすることが伺われるものの、本件労働契約の成立時において、原告と被告との間で、原告の担当する業務を限定する旨の合意が成立していたことを認めるに足りず、原告は、本件配転命令前には教務、財務等の広報以外の事務も行っていたのであるから、本件配転命令時においても、本件労働契約上原告の担当する業務を広報業務に限定する旨の合意の成立は認め難い。 そうすると、既に論じたとおり、原告が行っている業務自体の負荷又は営繕室の環境等が、本件配転命令前の業務又は勤務場所に比べて客観的に原告の負担となるようなものではないことも併せて考えると、原告が主張する広報のプロフェッショナルとしての矜持を傷つけられたという主観面を最大限考慮しても、本件配転命令が、原告に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということはできない。 |