全 情 報

ID番号 09339
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 サン・サービス事件
争点 固定残業代の有効性
事案概要 (1) 本件は、ホテル等を経営する被告(株式会社サン・サービス)のホテル内のレストランで調理師(料理長)として働いていた原告が、被告に対し、①原告の最終出勤日から退職日までの間は公休を使用したので当該期間の賃金、②雇用契約期間中の残業時間に対する割増賃金が未払であるとして、労働契約に基づき未払賃金の支払等及び割増賃金に対する労働基準法114条に定める付加金の支払を求めた事案である。
 これに対し、被告は、③原告の各就労日における労働時間の始期と終期は原則として争わないが、原告は就業時間中に休憩時間を取っていたからこれを労働時間から控除すること、④原告に支給していた職務手当の支払は、定額残業代の合意にあたるので、原告が主張する未払残業代の一部については支払済みであるなどと主張した。
(2) 判決は、③の休憩時間の控除については認めず、④の職務手当が残業代として支払われていることを認めた上で、未払賃金136万0986円等及び付加金110万7706円の支払いを命じた。
参照法条 労働基準法34条
労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給
裁判年月日 令和元年6月20日
裁判所名 津地伊勢支
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)第38号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1224号51頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給〕
(1)≪休憩時間について≫
少なくとも食事を提供している時間については、実際の提供量に関わらず、注文に応じて調理をする必要があるから勤務時間にあたることは間違いなく、前後についても、準備や片付けに時間を要していたこと、調理担当が原告とAの2名であったことから、原告がメインで調理を行っていたこと、原告の業務量が徐々に増えていったこと、被告が管理すべき勤務時間に休憩の記録がないことなどからすると、タイムカードの記載の休憩時間以外は労働時間であったことが認められる。
 これに対し、ホテルの宿泊人数、予約がない客の人数、注文内容によっては繁忙に差があること、原告が早退している日もあること、原告が勤務していた時期よりも、退職した後の方が売り上げが上がったというが(被告代表者)、そのような事実が存したとしても、上記判断を覆すものとはいえない。
(2)≪職務手当が固定残業代として有効か否かについて≫
ア 労基法37条は割増賃金の支払を使用者に明示しているが、これは時間外、休日、深夜の労働に対し、労基法の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことであるから、そのような額の割増賃金が支払われる限りは、労基法所定の計算方法をそのまま用いる必要はないといえる。そうすると、定額残業代の定めが有効とされるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分とが明確に区別される必要があり、同条に定める最低賃金を超えるものであることが確認できるのであれば、同法の趣旨には反しないといえる。
イ 本件では、基本賃金月給20万円と明確に区別された上で、職務手当13万円との記載があり、さらにこれが残業・深夜手当を見なされる旨の明示もされていることから、基礎となる賃金を算出すれば、労基法37条所定の割増賃金との差額が明らかになるといえ、精算が可能ということになるから、あえて同規定を無効と解する必要はなく、原告の稼働時間と照らし合わせて、不足額があれば精算させれば足りるものと解され、この観点で労基法37条に反するとはいえない。
ウ もっとも、このように考えうるとしても、基本給が20万円であり、深夜・残業手当に充当されるべき職務手当が13万円であるところ、この13万円に相当する労働時間は、約86.20時間に該当する。
 確かに、上記時間は、一般的に恒常的な労働時間の上限とされる労基法36条の45時間の制限を超えるものであるが、本件の固定残業代の合意により、直ちに原告に同時間残業すべき義務が生ずるものではないこと、長時間労働により心身の障害と長時間労働の因果関係が認められる時間ではあるものの、実際の労働内容については、実質的には手待ち時間的なものも含まれることを考えると、望ましいかどうかはともかくとして、本件の合意を無効とすべきとは認められない。
そうすると、本件の固定残業代の合意は有効と解される。