全 情 報

ID番号 09340
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 サン・サービス事件
争点 固定残業代の有効性
事案概要 (1) 本件は、ホテル等を経営する一審被告(株式会社サン・サービス)のホテル内のレストランで調理師(料理長)として働いていた一審原告が、一審被告に対し、①一審原告の最終出勤日から退職日までの間は公休を使用したので当該期間の賃金、②雇用契約期間中の残業時間に対する割増賃金が未払であるとして、労働契約に基づき未払賃金の支払等及び割増賃金に対する労働基準法114条に定める付加金の支払を求めた事案である。  これに対し、一審被告は、③一審原告の各就労日における労働時間の始期と終期は原則として争わないが、一審原告は就業時間中に休憩時間を取っていたからこれを労働時間から控除すること、④一審原告に支給していた職務手当の支払は、定額残業代の合意にあたるので、一審原告が主張する未払残業代の一部については支払済みであるなどと主張した。
(2) 原審判決は、③の休憩時間の控除については認めず、④の職務手当が残業代として支払われていることを認めた上で、未払賃金136万0986円等及び付加金110万7706円の支払いを命じた。これに対し、一審一審原告、一審一審被告の双方が控訴をした。
(3)本判決は、職務手当は時間外労働等に対する対価とは認めることができないなどとして、原判決を変更し、未払賃金合計400万3739円等及び付加金370万4451円の支払いを命じた。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給
裁判年月日 令和2年2月27日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ネ)580号
裁判結果 原判決一部変更、控訴一部棄却
出典 労働判例1224号42頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給〕
(1)≪休憩時間について≫
少なくとも食事を提供している時間については、実際の提供量に関わらず、注文に応じて調理をする必要があるから勤務時間にあたることは間違いなく、前後についても、準備や片付けに時間を要していたこと、調理担当が一審原告とAの2名であったことから、一審原告がメインで調理を行っていたこと、一審原告の業務量が徐々に増えていったこと、一審被告が管理すべき勤務時間に休憩の記録がないことないこと、一審一審原告は、料理長としての仕事のみならず、フロント業務の一部や客の送迎をも行っていたこと、本件店舗を含むホテル内には従業員の休憩施設がないことなどに照らすと、一審一審原告が調理等に従事していない時間があったとしても、それは勤務から完全に解放された休憩時間ではなく、手待ち時間とみるのが相当であって、後記のランチが休みの日以外は、タイムカードの記載に従って労働時間を認定するのが相当である。
 もっとも、ランチが休みの日には、一審一審原告は、ランチの準備、提供、後片付けをする必要はなかったから、上記認定を前提としても、少なくとも2時間程度は休憩が取れていたものと認められる。
(2)≪職務手当が固定残業代として有効か否かについて≫
一審一審被告は、一審一審原告と一審一審被告間の雇用契約書である提案書に、「勤務時間」として「6時30分~22時00分」と記載し、「休憩時間は現場内にて調整してください。」としていた上、勤務時間管理を適切に行っていたとは認められず、一審一審原告は、平成27年6月から平成28年1月まで、毎月120時間を超える時間外労働等をしており、同年2月も85時間の時間外労働等をしていたことが認められる。その上、一審一審被告は、担当の従業員が毎月一審一審原告のタイムカードをチェックしていたが、一審一審原告に対し、実際の時間外労働等に見合った割増賃金(残業代)を支払っていない。
 そうすると、職務手当は、これを割増賃金(固定残業代)とみると、約80時間分の割増賃金(残業代)に相当するにすぎず、実際の時間外労働等と大きくかい離しているものと認められるのであって、到底、時間外労働等に対する対価とは認めることができず、また、本件店舗を含む事業場で36協定が締結されておらず、時間外労働等を命ずる根拠を欠いていることなどにも鑑み、本件職務手当は、割増賃金の基礎となる賃金から除外されないというべきである。
 なお、一審一審被告は、割増賃金(固定残業代)の合意が無効となるとしてもその範囲は45時間を超える部分に限るべきである旨主張するが、割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金の範囲を限定する根拠はなく、採用できない。