全 情 報

ID番号 09342
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人信愛学園事件
争点 園長の労働者性
事案概要 (1) 本件は、被告が経営するA幼稚園(平成27年に認定こども園に移行)において、平成21年4月1日から1年間の有期契約を複数回更新しつつ園長を務めていた原告(被告の理事、評議員も務める)が、被告から平成30年4月1日以降の契約の更新拒絶をされたことについて、被告に対し、①原告と被告との契約は労働契約であり、更新拒絶には客観的合理性がなく無効である上、原告は期間の定めのない労働契約への転換の申込みをしたと主張して、労働契約に基づき、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本判決確定までの賃金及び賞与等の支払を求め、?被告から違法な更新拒絶をされた上、原告の更新拒絶についての議論が行われた被告の理事会において、出席理事から原告の人格権を侵害する発言があり、その後の団体交渉が不当に打ち切られたなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料30万円等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、原告の①の主張を認め、②の主張は棄却した。
参照法条 労働基準法9条
労働契約法18条
労働契約法19条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (2) 委任・請負と労働契約
解雇 (民事)/14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年2月27日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)2253号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1226号57頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (2) 委任・請負と労働契約〕
(1)原告は、本件幼稚園の予算や職員の人事について、常に理事長又は理事会の承認を得る必要があり、その職務の内容及び遂行方法からすれば、被告の指揮監督下において、本件幼稚園の園長として勤務していたものというべきである。
 また、原告は、固定残業手当及び賞与名目の金銭の支給を受けており、報酬の支払形態等について他の従業員の賃金と大きく異なるところがあったとも認められないから、原告が支払を受けた報酬は、被告の指揮監督の下に労務を提供したことの対価であったというべきであり、このことは、原告についても源泉徴収及び社会保険料の控除がされていることによっても裏付けられる。
 そして、原告と被告との間で1年ごとに取り交わされた契約書等は、それらの表題が「雇用に関する契約書」、「労働条件通知書」及び「雇用契約書」であり、「雇用」、「賃金」ないし「基本給」等の雇用契約を前提とした表現が使用されているところ、被告においては、原告以前の園長の時代から、同様の書式が使用されているにも関わらず、原告はもとより歴代の園長や被告の関係者のいずれからもまた、上記書式には、勤務場所や勤務条件の記載があり、これらが実態と異なって、別段の違和感や疑念をもたれたことをうかがわせる事実は認められないことからすれば、かかる記載が関係者の認識と整合していたことが推認される。
以上検討したとおりの原告の勤務実態、支払われている報酬の性質及び当事者の認識からすれば、原告と被告との間の契約の性質は、労働契約であったと認めるのが相当である。 (2)被告は、本件幼稚園の園長は、現場の責任者として相当な裁量をもって独立して事務を処理することが可能だったのであるから、園長と被告との間の合意内容は準委任契約であったと主張する。
 しかし、労働者である現場の責任者が一定の裁量を持って日常業務を行うことは通常考えられることであり、原告が園長として一定の裁量を有していたことは労働契約の存在を直ちに否定する事情とはならない。
 イ 被告は、原告が自らの園長としての職務内容を決定していること、原告自身を含む給与決定にも関与していること、対外的にも法人代表として活動を行ってきたこと、被告の理事会の推薦を受け評議員ともなっていることを、原告と被告との間の契約が準委任契約であったことの根拠として主張する。
 しかし、原告が園長になってから始めたという、園児の出迎えや保育に入るなどの職務の内容は、何らかの経営判断に関するものではなく、幼稚園の園長としての日常の業務の範囲のものであり、労働者としての園長が裁量の範囲で自由に行い得る性質のものであって、他に原告が上記範囲を超えた職務内容の決定といった業務に従事したことを認めるに足りる証拠はない。また、現場の責任者である園長の立場として職員の給与について意見を述べることがあったとしても、そのことが直ちに原告が労働者であることと整合しないわけではない上、原告は、Hの採用についても理事長の許可を取り、職員の待遇について提案しても理事長から却下されるなど、職員の人事について、自らの意向で自由に決定できる状況にはなかったものと認められる。被告が、原告が対外的に法人代表として活動を行った根拠として提出する連携施設契約書は、理事長から承認を得た契約内容について、相手方から園長印でよいから押印してくれと言われたため、契約書に園長印を押したものに過ぎず、後から理事長に報告しても何ら問題とされていないことからすれば、原告が独断で上記契約を締結したとは認められず、他に原告が対外的に法人代表として活動を行ったことを認めるに足りる証拠はない。原告が被告の評議員であることは、原告の契約が労働契約であることと矛盾しない。
 以上のとおり、被告の主張する事情は、いずれも原告と被告との間の契約が準委任契約であることの根拠とはならないというべきである。