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ID番号 09354
事件名 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 博報堂事件/博報堂(雇止め)事件
争点 雇止めの有効性(雇用契約終了の同意)
事案概要 (1) 原告は、被告(㈱博報堂)との間で、昭和63年4月から、1年毎の有期雇用契約を締結し、これを29回にわたって更新、継続してきたが、不更新条項が記載された雇用契約に基づき、平成30年3月31日の雇用期間満了をもって雇止めされた。そのため、原告は、原・被告間の有期雇用契約は、労働契約法19条1号又は2号に該当し、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め後の賃金、賞与の支払い及びこれらに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
(2) 判決は、雇止めは無効として、原告が雇用契約上の地位確認並びに平成30年4月1日から本判決確定の日までの賃金及び賞与の支払を認めた。
参照法条 労働契約法19条
体系項目 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年3月17日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)1904号
裁判結果 一部却下、一部認容
出典 判例時報2455号75頁
労働判例1226号23頁
労働経済判例速報2415号3頁
労働法律旬報1969号72頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 水町勇一郎(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1548号98~101頁2020年8月
井下顕・季刊労働者の権利336号133~137頁2020年7月
井下顕・労働法律旬報1968号18~21頁2020年9月25日
野田進・労働法律旬報1969号36~45頁2020年10月10日
木村俊一朗・LIBRA20巻12号28~29頁2020年12月
西芳宏・経営法曹207号171~180頁2021年3月
矢野昌浩・法学セミナー65巻10号121頁2020年10月
判決理由 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め〕/〕
(1)約30年にわたり本件雇用契約を更新してきた原告にとって、被告との有期雇用契約を終了させることは、その生活面のみならず、社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり、その負担も少なくないものと考えられるから、原告と被告との間で本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり、これを肯定するには、原告の明確な意思が認められなければならないものというべきである。
 しかるに、不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは、原告にとって、本件雇用契約が更新できないことを意味するのであるから、このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって、直ちに、原告が雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない。
 また、平成29年5月17日に転職支援会社であるキャプコに氏名等の登録をした事実は認められるものの、平成30年3月31日をもって雇止めになるという不安から、やむなく登録をしたとも考えられるところであり、このような事情があるからといって、本件雇用契約を終了させる旨の原告の意思が明らかであったとまでいうことはできない。むしろ、原告は、平成29年5月には人事部社員に対して雇止めは困ると述べ、同年6月には福岡労働局へ相談して、被告に対して契約が更新されないことの理由書を求めた上、被告の社長に対して雇用継続を求める手紙を送付するなどの行動をとっており、これらは、原告が労働契約の終了に同意したことと相反する事情であるということができる。
 そして、他に、被告の上記主張を裏付けるに足る的確な証拠はない。
 以上からすれば、本件雇用契約が合意によって終了したものと認めることはできず、平成25年の契約書から5年間継続して記載された平成30年3月31日以降は更新しない旨の記載は、雇止めの予告とみるべきであるから、被告は、契約期間満了日である平成30年3月31日に原告を雇止めしたものというべきである。
(2)平成25年以降の更新の態様やそれに関わる事情等からみて、本件雇用契約を全体として見渡したとき、その全体を、期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには、やや困難な面があることは否めず、したがって、労働契約法19条1号に直ちには該当しないものと考えられる。
 原告は、既に平成25年までの間に、契約更新に対して相当に高い期待を有しており、その後も同様の期待を有し続けていたものというべきであるから、原告が契約更新に期待を抱くような発言等が改めてされたとは認められないとしても、原告の期待の存在やその期待が合理性を有するものであることは揺るがないというべきである。
 したがって、原告の契約更新に対する期待は、労働契約法19条2号により、保護されるべきものということができる。
(3)被告の主張するところを端的にいえば、最長5年ルールを原則とし、これと認めた人材のみ5年を超えて登用する制度を構築し、その登用に至らなかった原告に対し、最長5年ルールを適用して、雇止めをしようとするものであるが、そのためには、原告の契約更新に対する期待を前提にしてもなお雇止めを合理的であると認めるに足りる客観的な理由が必要であるというべきである。
 この点、被告の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性というおよそ一般的な理由では本件雇止めの合理性を肯定するには不十分であると言わざるを得ない。また、原告のコミュニケーション能力の問題については、雇用を継続することが困難であるほどの重大なものとまでは認め難い。むしろ、原告を新卒採用し、長期間にわたって雇用を継続しながら、その間、被告が、原告に対して、その主張する様な問題点を指摘し、適切な指導教育を行ったともいえないから、上記の問題を殊更に重視することはできないのである。そして、他に、本件雇止めを是認すべき客観的・合理的な理由は見出せない。
 以上によれば、原告が本件雇用契約の契約期間が満了する平成30年3月31日までの間に更新の申込みをしたのに対し、被告が、当該申込みを拒絶したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことから、被告は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる。