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ID番号 09355
事件名 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 テヅカ事件
争点 継続雇用後の労働条件と労働契約法19条
事案概要 (1) 本件は、いわゆる定年後の継続雇用として、平成27年9月から被告(株式会社テヅカ)との間で有期の雇用契約を締結し、複数回の契約更新をしていた原告に対し、被告は平成30年2月5日、雇用契約満了通知書を交付して、本件雇用契約を更新しない旨通知した(以下「本件更新拒絶1」という。)。これに対し、原告は、雇用契約が更新されると期待することに合理的理由があったにもかかわらず、被告がこれを拒絶し、そのことについて客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当でないと主張して、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、更新拒絶の後の平成30年4月から本判決確定の日までの賃金等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、労働契約法19条に基づき、原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認し、原告に対し、平成30年4月から令和2年3月まで、賃金41万7000円等の支払を命じた。
参照法条 労働契約法19条
高年法9条1項
体系項目 解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年3月19日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)2194号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1230号87頁
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)被告は、高年法に従い設けられた本件継続雇用制度に基づく雇用が問題となっている本件は、労働契約法19条の妥当する場面ではなく、同法の問題ではない旨主張する。しかしながら、労働契約法19条が適用対象とする有期雇用契約について、類型や条件等を限定する法令は特段存在していないのであって、定年後の継続雇用であるからといって法の適用自体を否定すべき理由はなく、被告の主張は採用することができない。
(2)被告は、本件雇用契約が終了したのは、原告が被告の労働条件の提示を拒否して再提案をしなかったためであり、雇止めではないとも主張する。しかし、上記のとおり本件雇用契約にも労働契約法19条が適用されるのであり、本件雇用契約が同条により更新されたものとみなされるか否かは同条所定の要件を満たすか否かという点で検討されるべきであって、かつこれで足りるというべきである。
(3)原告が被告に対して一貫して本件雇用契約の更新を申し込んでおり、雇止めが無効であるから同一の労働条件で更新されたものとみなされると主張して本件訴えを提起するに至ったことからすれば、原告は「当該有期労働契約の更新の申込みをした」と認められるし、被告の労働条件の提示を拒否し、さらに再提案をしなかったことをもって、原告が更新の申込みを撤回したとも認められない。また、被告は、原告に対して改めて労働条件を提案し、つまりは自らの提示する労働条件であれば更新に応ずるとの意思を示したのであって、原告の提案した労働条件を承諾しなかったのであるから、「当該申込みを拒絶」したとも認められる(以下「本件更新拒絶2」という。)。なお、被告の提示した労働条件の合理性・相当性等については、被告が本件雇用契約の更新を拒絶したことについて客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるかの判断の要素として考慮されるべきである。
(4)被告は、本件継続雇用制度は高年法所定の高年齢者の雇用確保措置として設けられたものであり、継続雇用においては賃金等を含む労働条件について定年退職前のものが保障されるものではない旨主張する。確かに、高年法9条1項は、事業主が講じるべき高年齢者雇用確保措置として、定年の引上げ、継続雇用制度の導入及び定年の定めの廃止の3つを掲げているところ、事業主が継続雇用制度を採用する場合における具体的な制度内容については、事業主(使用者)の合理的な裁量に委ねられているところが大きい。そして、継続雇用は、定年引上げや定年廃止とは異なり、満60歳(高年法8条本文)とする定年退職制度の存在を前提としつつ満65歳までの一定の雇用及び収入の確保を図るものであるから、一般論として、定年退職前の労働条件等が継続雇用においても当然に保障されるものとはいえない。そのため、事業主において高年齢者の雇用確保措置として有期雇用契約とその更新を前提とした継続雇用制度を設けていたとしても、その雇用契約の更新において、必ずしも定年退職前と同程度の賃金水準を保障しなければならないというものではなく、かつ労働者においてそのことを期待するものともいえない。
 しかし、労働契約法19条2号は「当該有期労働契約が更新されるものと期待する」と規定しており、つまりは雇用が継続することを期待の対象とすることとしているのであって、従前の労働条件が維持されることを期待の対象としていないから、上記のとおりの継続雇用の特性があるとしても、本件雇用契約に労働契約法19条2号が適用される以上は、これをもって同号の要件該当性の判断を左右するものではない。被告が原告に提示した労働条件については、後記のとおり更新拒絶についての客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるか否かにおける要素として判断されるべきである。
(5)被告において人員整理を含む人件費削減の抽象的な必要性があったことは理解することができるものの、原告に対して提示した賃金額は、当時の具体的状況においてやむを得ないものであるという根拠を具体的に検討したものであるとは認められず、かつそのような検討をした経緯も認められない上、原告の勤務能力等を踏まえた相当な提示額である根拠もうかがわれない。そのため、被告が原告に対して提示した労働条件は、もともとの原告の賃金額が比較的高額であったことを考慮しても、具体的妥当性・合理性を有するものであったとまでは認められず、これを承諾しなかった原告の対応が不当であるとも認められない。
 そうすると、被告が原告の本件雇用契約の更新の申込みを拒絶することについては相応の根拠があったとは認められないから、客観的に合理的な理由があったとはいえず、そのような理由で更新の申込みを拒絶することが社会通念上相当であるとも認められない。
 以上によれば、本件更新拒絶2にかかわらず、被告は、原告の本件雇用契約の更新の申込みについて、承諾したとみなされる(労働契約法19条2号)。