全 情 報

ID番号 09362
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日の丸交通足立事件
争点 雇止めの有効性
事案概要 (1) 本件は、被告(㈱日の丸交通足立)においてタクシー運転手として勤務し、定年退職後は有期の嘱託雇用契約を結んで稼働していた原告が、自転車の運転者と接触事故を起こしたことを理由として、被告が原告を、「乗務中に道路交通法72条1項違反(報告義務違反)及び第17条2項違反(歩道等手前での一時停止義務違反)に相当する行為を犯した」こと、原告の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由である「速度超過、信号無視、右左折、転回、一時停止等交通法規を犯し重大な違反で事故を惹起したとき」、「事業場外において交通事故を起こしたときは、速やかに会社に報告し運行管理者の指示を受けなければならない。」に違反する行為であり、乗務員として不適格であると認められるとして、平成31年4月18日をもって雇止めをした。これに対し原告が本件雇止めは無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに令和元年5月から本判決確定の日までの給与等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、本件雇止めは、労契法19条に反して無効であるとして、原告の請求を認容した。
参照法条 労働契約法19条
体系項目 解雇 (民事)/14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年5月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)11642号
裁判結果 認容
出典 労働判例1228号54頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)労契法19条2号における、雇用契約が更新されるものと期待することについての合理的理由の存否は、当該雇用の臨時性、常用性、更新の回数、雇用の通算期間、雇用期間の管理の状況等を総合考慮して決すべきものと解される。
 本件についてみると、被告においては、タクシー運転手が定年である67歳に達した後も、嘱託雇用契約を締結して雇用を継続してきたこと、被告のタクシー運転手のうち、70歳以上の運転手は16パーセントに上ること、原告は、昭和57年に入社後からタクシー運転手として勤務し、定年退職後の嘱託雇用契約についても契約書や同意書等の書面の作成がないまま、嘱託雇用契約を一度更新したことが認められ、これらの事実に照らすと、69歳に達した原告においても、体調や運転技術に問題が生じない限り、嘱託雇用契約が更新され、定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて、合理的な理由が認められるというべきである。
(2)次に、本件雇止めが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるか否か(労契法19条柱書)について検討する。
自転車の運転者が、後日になって事故を申告する可能性があることを考慮すれば、被告や他の従業員にとって重大な影響を与えるおそれのある不申告であって、被告が、原告が起こした不申告事案に対し、厳しい態度で臨まなければならないと考えることも十分理解できる。
 しかし、一方で、本件接触は、左後方の不確認という比較的単純なミスによるもので、接触した自転車の運転者は、ドライブレコーダーの記録から受け取れる限り、倒れた様子は見受けられず、接触後すぐに立ち去っていることから、本件接触及び本件不申告は、悪質性の高いものとまではいえない。後に事案を把握した警察においても、本件接触や本件不申告を道交法違反と扱って点数加算していないことも踏まえれば、本件接触及び本件不申告は、警察からも重大なものとは把握されていないことがうかがわれる。また、原告は、営業を終え、車体に痕跡を発見したことがきっかけではあるものの、自分から本件接触をE補佐に報告しており、本件接触を隠蔽しようとはしていないことが認められ、報告後、現場に戻って警察に連絡することや、本社面談を受けることなどの会社の指示に素直に従い、接触の原因や不申告の重大さなどについて注意、指導を受けた内容を記憶し、反省していることも認められる。加えて、原告の車両に何らかの修理や塗装が施されたことを示す的確な証拠はなく、原告が、タクシー運転手として三十数年間、人身事故を起こすことなく業務に従事し、何度も表彰されるなど、優秀なタクシー運転手であったこと、本件接触のような一見する限り怪我がないように見える接触の相手方が無言で立ち去ってしまった場合に、警察に報告しなければならないことが頭に浮かばなかったとしても、一定程度無理からぬものがあることも考慮すれば、本件接触及び本件不申告のみを理由に雇止めとすることは、重過ぎるというべきである。
 したがって、本件接触及び本件不申告のみを理由とする本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり、社会的通念上相当であるとは認められない。