ID番号 | : | 09364 |
事件名 | : | 療養補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・津山労働基準監督署長(住友ゴム工業)事件 |
争点 | : | 労災保険法上の「労働者」 |
事案概要 | : | (1) 本件は、住友ゴム工業株式会社(以下「本件会社」という。)の実施する二輪車用タイヤの開発テストにおいて、テストライダーとして、バイクを運転してサーキットコースを周回走行する業務に従事していた原告が、平成29年5月20日のテスト走行中に転倒する事故により受傷し、後遺障害が残ったことにつき、津山労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づく療養補償給付、障害補償給付及び介護補償給付の各請求をしたところ、処分行政庁は、原告が本件会社の労働者に該当しないとして、これらをいずれも支給しない旨の処分をしたことから、本件各処分の取消しを求めた事案である。 (2) 判決は、労災保険法に基づく療養補償給付等を不支給とした本件各処分はいずれも違法であって、その取消しを求める原告の請求はいずれも理由があるとして、これを認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/労災保険の適用/ (1) 労働者 |
裁判年月日 | : | 令和2年5月29日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(行ウ)24号 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例1232号17頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/労災保険の適用/ (1) 労働者〕 (1)本具体的仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 本件会社から連絡調整役の契約ライダーを通じて原告に対してされる個別の開発テストへの参加の打診は、本件会社の原告に対する具体的仕事の依頼や業務従事の指示ではなく、単に、個別の開発テストの具体的な日程が決まった段階で、同日程で参加できる契約ライダーを募集するという意味合いを有するものにすぎないというべきである。 そうすると、上記のとおり、原告が個別の開発テストへの参加の打診を受け、参加を断ることも可能であったことをもって、原告に、本件会社による具体的仕事の依頼や業務従事の指示等に対する諾否の自由があったと評価することはできない。 (2)業務遂行上の指揮監督の有無 契約ライダーである原告は、社員ライダーと特に区別されることなく、走行する時間帯、周回数及び距離、走行方向及び走行の順番、乗車するバイク及び装着タイヤの種類等を定め各テストライダーが組み込まれた予定表により、従事すべきテスト走行の具体的な内容及び方法が決められており、そのとおりにテスト走行を実施することとされていた。また、テスト走行中も、契約ライダーは、社員ライダーと同様に、本件会社の社員であるE班長から、コーナー毎の走行速度や天候に応じた速度調整など、走行方法に関する具体的な指示を受け、これに従うこととなっていた。加えて、契約ライダーは、社員ライダーと同様に、テスト走行に備えて朝礼や終礼に参加することが義務付けられ、開始前のラジオ体操にも通例として参加していた。これらの点に鑑みれば、原告は、本件契約に基づいてテスト走行業務に従事する際、同業務の内容及び遂行方法に関し、本件会社から具体的な指揮命令を受けていたことは明らかであり、同業務の遂行に関して原告の裁量に委ねられていた事項はほぼ皆無であったといえる。そうすると、原告は、本件会社から、業務遂行上の指揮監督を具体的に受けていたというべきである。 (3)勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無 契約ライダーである原告は、本件会社の走行テスト業務に従事する期間中、本件会社により開発テストが実施されるテストセンターにおいて、所定の時刻に集合の上、予定表に定められた時間帯に指定されたコースを走行して、テスト走行業務に従事することとされていたものであり、本件会社による一定の時間的・場所的な管理・拘束の下にあったことは明らかといえる。 (4)労務提供の代替性の有無 労務提供の代替性という指揮監督関係を否定する要素は認められない。 (5)報酬の労務対償性について 契約ライダーである原告の報酬については、1日当たりの金額が定められており、本件契約における報酬額は1日当たり3万8979円であったところ、1日の業務従事時間が予定より短くなった場合であっても金額の増減はなく、また、宿舎に待機して業務に従事しなかった日についても支払われていたことが認められる。 業務従事時間が予定より短くなったり、宿舎に1日中待機したりするのは、本件会社による業務命令に基づくものということができるから、報酬が減額されないからといって、直ちに報酬の労務対償性を欠くと解すべき理由はないことを併せ考慮すれば、上記認定の原告の報酬額の算定方法等をもって、報酬の労務対償性を欠くとはいえず、かえって、数日間の業務に対する報酬ではなく、1日当たりの報酬という形で金額が定められていることに照らせば、テスト走行業務に対して原告に支払われる報酬には、一定の労務対償性があるものと評価することができる |