ID番号 | : | 09365 |
事件名 | : | 残業代等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | マツモト事件 |
争点 | : | 管理監督者性 |
事案概要 | : | (1) 本件は、青果物卸売業等を営んでいた被告(㈱マツモト)の従業員として稼働していた原告が、労働基準法37条1項、4項所定の法定外時間外・深夜・休日労働の割増賃金(残業代)に不払いがあるなどと主張して、未払残業代及びその遅延損害金の支払と労働基準法114条に基づく付加金及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。 (2) 判決は、原告が残業代の支払の対象とならない労働基準法41条2号の管理監督者に該当するなどの被告の反論を退け、おおむね原告の主張を認容し、残業代、付加金等の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法37条 労働基準法41条 労働基準法114条 |
体系項目 | : | 労働時間 (民事)/労働時間の概念/ (10) タイムカードと始終業時刻 労働時間 (民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者 雑則 (民事)/4 附加金 |
裁判年月日 | : | 令和2年6月3日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(ワ)8779号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/労働時間の概念/ (10) タイムカードと始終業時刻〕 (1)被告においては、従業員にタイムカードを打刻させる方法により労務管理がされていたものであるところ、被告の主張を踏まえても、タイムカードの打刻の信用性を疑わせる事情として的確なものは本件証拠上見出し難いから、原告のタイムカードに出勤及び退出の打刻があると認められる稼働日については、所定の休憩時間とされている1時間を挟んで、同時間帯、稼働があったものと推認するのが相当である。 タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日については、原告主張のような法定外労働時間があると認めることはできない。 (2)本件において、所定始業終業時刻は、前記前提事実のとおり、そもそも午前2時から午後2時までのうち8時間とされていて就業する時間帯が特定されているものではなく、実態としてみても、始業時刻は日ごとに区々としていて、深夜時間帯において労務に従事すべき時間帯が特定しているとは認め難い。 そうすると、原告の賃金中、深夜労働に対する対価部分を判別することが可能ということはできないから、その賃金の支払をもって深夜労働に対する対価の支払があったということもできない。 〔労働時間 (民事)/12労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者〕 (3)被告は、被告の株式譲渡前にあっては従業員6名程度、その後においても原告と訴外Kのほか事務方の従業員1名程度の極めて小規模な事業体であったものであり、そもそも、経営者の身代わり的存在を置いて、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとはおよそ認め難い。 原告の所定労働時間は前記説示のとおり一応1日8時間と定められてはいたところであって、およそ所定労働時間の稼働の有無や稼働の程度を随意にできたと認めることのできる証拠はない。 基本給のほかは、役職給その他の支給項目による支給はなく、原告の基本給に労働時間規制を超えて労働をすることの対価が含意されていたと認めるに足りる証拠もない。平成30年3月支払分からの賃金増額分も、被告主張のように、業績好転への寄与への期待から増額されたものとはいえても、管理監督者としての稼働に対する対価として増額されたと認めるべき的確な証拠はない。結局、原告に対し、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめることの対価としての十分な待遇がなされていたともたやすく認め難い。 以上の次第であって、本件において、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとは認め難い一方、原告に出退勤の自由や十分な待遇がなされていると認め難く、労働時間規制の枠組みを超えた稼働をさせたとしても労働者保護にかける嫌いがないとも評価し難いから、労働基準法41条2号が管理監督者について特に労働時間規制の例外を設けた趣旨にも鑑みると、そもそも原告が管理監督者に該当すると認めることは困難である。 〔雑則 (民事)/4 附加金〕 (4)付加金の制度は、使用者に対する一種の制裁罰であるほか、労働者に生ずる損害の填補という趣旨をも併せ有するものであるところ、前記認定の範囲で残業代を支払わないことについて宥恕すべき事情があるとは本件においては認め難いから、付加金として、除斥期間の経過していない割増賃金相当額である243万0603円を認めるのが相当である。 |