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ID番号 09368
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ハンプテイ商会ほか1社事件
争点 労働者性、偽装請負
事案概要 (1) 被告AQソリューションズ株式会社(「被告AQ」)は被告株式会社ハンプテイ商会(「被告CT」)からソフトウェア開発業務の委託を受けており、原告は、被告AQとの間で基本契約書に係る契約及び同契約に基づいて締結した個別契約により被告CTの事業所で、平成29年9月26日から生産管理システムのパッケージソフトのカスタマイズする開発業務に従事していたが、同年12月8日に被告AQから上記契約を解除された。そのため、原告は、被告AQと原告の契約の実態は、被告AQが原告を雇用し、その雇用関係の下に、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために労働に従事させる労働者派遣契約であり、また、被告らによる契約期間の途中の解除は無効であると主張して、(1)被告AQに対しては、平成29年12月から契約終期までの賃金等の支払、(2)被告CTに対しては、被告CTは労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為をした労働者派遣の役務の提供を受ける者であるから、被告CTと原告との間で労働契約が成立したと主張して、前記(1)と同額の賃金等の支払(前記(1)及び(2)は単純併合、不真正連帯債務)、(3)被告らに対し、連帯して、違法な解雇による不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料等の支払を求めた事案である。
(2) 判決は、被告AQと原告との契約は、実態としては、その雇用関係の下、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために原告を労働に従事させるという労働者派遣契約であったと認められるとして、被告AQと原告の契約終期を平成29年12月31日と認定した上で、同年12月分の賃金等の支払、違法な解雇による不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料等の支払を認容し、その余の原告の請求を棄却した。
参照法条 労働基準法9条
労働者派遣法40条の6第1項5号
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (2) 委任・請負と労働契約
労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社
裁判年月日 令和2年6月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)34001号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1233号26頁
労働経済判例速報2431号18頁
審級関係 確定
評釈論文 桑村裕美子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1562号130~133頁2021年9月
布施拓也・LIBRA21巻10号36~37頁2021年10月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (2) 委任・請負と労働契約〕
(1)〈1〉原告には、被告CTの社員を通じた被告AQからの業務の依頼(指示)を断る自由があったとは認められない。また、原告は、〈2〉業務遂行において、被告CTの社員を通じた被告AQによる指揮監督を受けていた。〈3〉原告は、時間的、場所的拘束を受けていたといえる。原告が第三者に作業を代替させたり、補助者を使ったりすることは想定されておらず〈4〉代替性はなかった。〈5〉報酬の支払計算方法は、ほぼ作業時間に応じて決まっていたといえ、作業時間と報酬には強い関連性があったといえる。また、〈6〉原告は開発のためのコンピューター、ソフトウェア等の機械・器具を有する者ではなく、報酬は月60万円であり、著しく高いとはいえず、また、事業者性が高いとはいえない。〈7〉原告は、被告AQの仕事以外に就くことは禁止されていないが、1日の作業時間によれば事実上専属の状態であった。
 以上からすると、原告は、被告AQに使用されて労働し、労働の対償としての賃金を支払われる者といえるから、被告AQと原告との契約は、形式上は業務委託契約の体裁を取っているものの、実質的には、被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用する労働契約であったと認められる。
〔労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社〕
(2)原告が分担する業務については、被告CTの社員が、スケジュール表(WBC)や会議等で指示することで、その内容を決定し、原告にスケジュール表及び会議で毎日その進捗状況を報告させ、成果物も検査していたこと、被告AQ代表者は、前記会議に参加したことはなく、被告CTや原告から、原告の作業内容、進捗状況及び成果物の検査結果を伝達されたことはなく、報告された原告の作業内容に関心を払っていなかったことが認められるから、被告AQは、原告の業務の遂行方法に関する指示その他の管理及び業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(区分基準告示の2条1号イ(1)(2))。また、原告に対し、始業及び終業の時刻を作業実績報告書により報告させてこれを点検し、外出を了承し、作業時間の延長、休日出勤を確認していたのは被告CTの社員であり、被告AQ代表者は、被告CTを介することなく原告の作業時間を把握・管理したことはなかったから、被告AQが原告の労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(同2条1号ロ(1)(2))。
 また、原告の開発作業に必要なコンピューター、サーバー及び開発ソフトを提供したのは被告CTであって、被告AQは提供しておらず、被告AQは、自己の責任と負担で準備し、調達した設備等で業務を処理することはなかった(同2条2号ハ(1))。
原告の業務内容や進行状況を把握していなかったことが認められ、被告AQは、自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理していたともいえない(同2条2号ハ(2))。
 そうすると、被告AQは、原告の労働力を自ら直接利用していたともいえず(同2条1号本文)、かつ、業務を自己の業務として契約の相手方である被告CTから独立して処理していたということもできない(同2条2号本文)。
 したがって、被告AQは、労働者派遣事業を行う事業主といえ、原告は被告CTの指揮命令下に置かれ、被告CTのために労働に従事していたと認めるのが相当である。
 以上から、被告AQと原告との契約は、実態としては、被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用したものと認められ、その雇用関係の下、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために原告を労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったと認められる。
(3)根拠がない違法な解雇(本件解除)を行ったことについて、被告AQ代表者には少なくとも過失が認められるから、原告に対する不法行為が成立する。
 本件解除を理由とする不法行為の慰謝料額は、8万円とするのが相当である。
(4)労働者派遣法40条の6第1項5号が、同号の成立に、派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」があることを要することとしたのは、同項の違反行為のうち、同項5号の違反に関しては、派遣先において、区分基準告示の解釈が困難である場合があり、客観的に違反行為があるというだけでは、派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解される。そうすると、労働者派遣の役務提供を受けていること、すなわち、自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや、労働者派遣以外の形式で契約をしていることから、派遣先において直ちに同項5号の「免れる目的」があることを推認することはできないと考えられる。また、同項5号の「免れる目的」は、派遣先が法人である場合には法人の代表者、又は、法人から契約締結権限を授権されている者の認識として、これがあると認められることが必要である。
 被告CTと被告AQとの契約においては、被告CTの担当者であったZ2が、被告AQ等の業務委託先との間で業務委託契約を締結するか否か決定する権限を有していたから、Z2において「免れる目的」があったかを検討すべきであるところ、被告CT代表者ないしZ2において、労働者派遣法の規制を免れる目的があったということはできない。以上から、被告CT代表者やZ2において「免れる目的」があったとは認められない。