全 情 報

ID番号 09372
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 フジ住宅ほか事件
争点 使用者の差別行為による慰謝料請求
事案概要 (1) 本件は、被告会社(フジ住宅株式会社)に雇用され、大韓民国(以下「韓国」という。)の国籍を有する原告が、被告会社及びその代表取締役会長である被告Yから、〈1〉韓国人等を誹謗中傷する旨の人種差別や民族差別を内容とする政治的見解が記載された資料が職場で大量に配布(本件配布①)されてその閲読を余儀なくされ、〈2〉都道府県の教育委員会が開催する教科書展示会へ参加した上で被告らが支持する教科書の採択を求める旨のアンケートを提出することを促し(本件勧奨)、これを余儀なくされたほか、〈3〉上記〈1〉及び〈2〉が違法であるとして本件訴えを提起したところ原告の訴えを誹謗中傷する旨の従業員の感想文が職場で配布(本件配布②)されたことにより報復的非難を受け、これらにより原告の人格権ないし人格的利益が侵害された、などと主張して、被告会社の代表取締役である被告Yに対しては、不法行為(民法709条)に基づいて、被告会社に対しては、会社法350条、労働契約の債務不履行又は不法行為(民法709条)に基づいて、いずれも損害賠償として連帯して慰謝料等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、被告Yに対して、不法行為に基づき、被告会社に対して、会社法350条に基づき、いずれも損害賠償として連帯して110万円及び遅延損害金の支払を認容し、その余の請求を棄却した。
参照法条 民法709条
会社法350条
体系項目 労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務
裁判年月日 令和2年7月2日
裁判所名 大阪地堺支
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)1061号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1227号38頁
労働経済判例速報2427号3頁
消費者法ニュース129号199頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 安原邦博・民主法律時報566号1~2頁2020年7月
延増拓郎・労働経済判例速報2427号2頁2020年11月20日
石田信平・季刊労働法272号172~185頁2021年3月
水口洋介(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1558号123~126頁2021年5月
判決理由 〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務〕
(1)私的支配関係である労働契約において、使用者の実施する文書配布による教育が、その配布の目的や必要性(当該企業の設立目的や業務遂行との関連性)、配布物の内容や量、配布方法等の配布態様、そして、受講の任意性(労働者における受領拒絶の可否やその容易性)やそれに対する自由な意見表明が企業内で許容されていたかなどの労働者がそれによって受けた負担や不利益等の諸般の事情から総合的に判断して、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益を具体的に侵害するおそれがあり、その態様、程度がもはや社会的に許容できる限度を超える場合には違法になるというべきである(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁(以下「最高裁昭和48年判決」という。)参照)。
 本件配布〈1〉は、従業員間の在日韓国人に対する差別的言動を誘発していないとはいっても、労働契約に基づき労働者に実施する教育としては、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益を具体的に侵害するおそれがあり、その態様、程度がもはや社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法というべきである。
(2)本件勧奨は、業務と関連しない政治活動であって、労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取扱いを伴うもので、その侵害の態様、程度が社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法というべきである。
(3)本件配布②は、被告らが行った本件配布①及び本件勧奨はいずれも原告に対する不法行為を構成するものであるにもかかわらず、その救済を求めて本件訴えを提起した原告に対して、本件訴えが不当であることを、主に被告会社の従業員が本件訴え及び提訴者を批判していることを内容とする多数の文書を社内に配布することにより周知して、原告の前記行為を批判するものであって、原告に対する報復であるとともに、原告を社内で孤立化させる危険の高いものであり、原告の裁判を受ける権利を抑圧するとともに、その職場において自由な人間関係を形成する自由や名誉感情を侵害したものというべきであって、違法であることは明らかである。