ID番号 | : | 09377 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 福屋不動産販売事件 |
争点 | : | 競業避止義務違反を理由とする懲戒解雇 |
事案概要 | : | (1) 本件は、不動産の売買・賃貸・仲介及び管理等を目的とする各株式会社(その後、いずれも被告(株式会社福屋不動産販売)が吸収合併した。)の従業員であった原告らが、上記各株式会社がした懲戒解雇(原告X1及び原告X2については同業他社に転職するに当たって他の従業員を引き抜く行為等、原告X3については居住用と偽って社員割引制度を利用して不動産を購入したことを理由とするもの)が無効であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、未払及び将来賃金並びに賞与等、また、上記各解雇により人格的利益を侵害されたとして、不法行為に基づき、それぞれ慰謝料等の各支払を求める事案である。 (2) 判決は、原告X1及び原告X2について解雇は有効として請求を棄却し、原告X3の解雇は無効として賃金請求権の一部を認容し、その余の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/ (8) 二重就職・競業避止 |
裁判年月日 | : | 令和2年8月6日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成29年(ワ)11926号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1234号5頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 小西康之・ジュリスト1551号4~5頁2020年11月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/ (8) 二重就職・競業避止〕 (1)原告X1及び原告X2が福屋不動産販売(奈良)の本部長及び店長という重要な地位にありながら、A1店の従業員3名、A2店の従業員3名、福屋不動産販売(東京)の従業員1名に対し、同業他社であるC社のために転職の勧誘を繰り返した。 また、原告X1及び原告X2は、福屋不動産販売(奈良)の7店舗のうち、A1店の店長に加え、営業職6名のうち2名、A2店の営業職6名のうち3名に転職の勧誘を行い、シニアアドバイザーやFマネージャーには「引き抜き」のための労働条件上乗せをしたり、F マネージャーには300万円もの支度金を提示するなどしている。 さらに、転職の勧誘を受けた原告X2が福屋不動産販売(奈良)のA1店から約450メートルしか離れていないC社のL店の店長となっており、他の営業職も同店で勤務することが想定された上、その店舗探しも福屋不動産販売(奈良)在職中に行っていた。 加えて、内部通報により上記各転職の勧誘行為が発覚し、福屋不動産販売(奈良)がシニアアドバイザーやFマネージャーに対して説得するなどしてシニアアドバイザーらが翻意した結果、原告X2以外が転職するに至らなかったものの、そうでなければ、原告X1及び原告X2の上記各転職の勧誘により、福屋不動産販売(奈良)を含む福屋グループの相当数の従業員がC社に転職し、上記7名が勧誘の対象となったのはその営業成績が優秀であったためと考えるのが自然であることも考慮すると、その場合に福屋不動産販売(奈良)の経営に与える影響は大きかったものと容易に推測される。 そして、原告X1及び原告X2が福屋不動産販売(奈良)の他の営業職や事務職にも声をかけていたことも窺われる。 これらの事情に照らせば、原告X1及び原告X2の行為は、単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、社会的相当性を欠く態様で行われたものであり、他方、原告X1及び原告X2がまもなく退職を予定していたことも考慮すると、原告X1及び原告X2の懲戒解雇には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる。 (2)原告X3が、本件不動産売買届出規程8条2号に違反し、居住目的である旨虚偽の届出を行って、福屋アセットマネジメントに売却予定であった本件宅地・居宅を購入したことは、「就業規則をはじめとする会社の諸規程(就業規則付属規程を含む)に違反した者」(本件就業規則(枚方)82条3項1号)、「虚偽の報告により会社を欺くことにより、事業の正常な運営を妨げた者」(同項2号)に該当する。しかしながら、福屋アセットマネジメントが本件宅地・居宅を転売するなどして具体的にどの程度の利益を得られたのかは必ずしも明らかでない上、福屋不動産販売(枚方)が具体的に被った損害としては仲介手数料を得られなかったというにとどまり、その額も福屋不動産販売(枚方)にとり大きな額であったとまでいえない。加えて、結果的には、原告X3は、本件宅地・居宅に現在に至るまで居住し続けていることを考慮すると、上記のとおり、懲戒事由に該当するとしても、解雇が社会通念上相当とまでは認められない。以上によれば、原告X3の懲戒解雇は無効であるから、原告X3の本件地位確認請求には理由がある。 |