ID番号 | : | 09379 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴事件(4047号)、附帯控訴事件(5174号) |
いわゆる事件名 | : | エアースタジオ事件 |
争点 | : | 劇団員の労働者性 |
事案概要 | : | (1) 本件は、一審被告(株式会社エアースタジオ)の下で劇団員として活動していた一審原告が、法定労働時間に対する最低賃金法による賃金及び時間外労働に対する法定の割増率による割増賃金について未払があるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づく賃金等及び労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求めるとともに、一審被告が一審原告を、一月に2日程度しか休日を取得できず、一日3時間程度しか睡眠時間を取得できない環境で長きにわたり労務提供させた行為及び被告が従業員をして行わせた暴言、脅迫が不法行為に該当するとして、使用者責任に基づく損害賠償請求として、慰謝料等の支払を求める事案である。 (2) 原審判決は、一審原告の労働者性については、裏方業務について労務の提供であると認め、公演への出演については労務の提供とはいえないとした上で、賃金の一部請求を認容し、その余の請求については棄却したため、一審原告、一審被告ともこれを不服として控訴した。 (3)本判決は、原審判決の一部を変更し、裏方業務に加え、公演への出演及び稽古等についても(公演打ち上げを除く。)、労働者性を認めるのが相当であるとして、賃金請求を認容し、その余の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (13) 演奏楽団員・オペラ歌手・劇団員等 |
裁判年月日 | : | 令和2年9月3日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ネ)4047号/令和1年(ネ)5174号 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、控訴一部棄却、附帯控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例1236号35頁 労働経済判例速報2441号3頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 橋本陽子・ジュリスト1554号4~5頁2021年2月 榎本英紀・労働経済判例速報2441号2頁2021年4月30日 雨夜真規子・民商法雑誌157巻2号115~124頁2021年6月 小宮文人・労働法律旬報1994号27~33頁2021年10月25日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則 (民事)/労働者/ (13) 演奏楽団員・オペラ歌手・劇団員等〕 (1)当裁判所は、原審と異なり、大道具、小道具、音響・照明業務(裏方業務)のほか、公演への出演及び稽古等についても(ただし、公演打ち上げを除く。)、労働者性を認めるのが相当である。 (2)一審原告が、大道具に関する業務や音響照明の業務について、担当しないことを選択する諾否の自由はなく、業務を行うに際しては、時間的、場所的な拘束があったものというべきである。 (3)確かに、一審原告は、本件劇団の公演への出演を断ることはできるし、断ったことによる不利益が生じるといった事情は窺われない。しかしながら、劇団員は事前に出演希望を提出することができるものの、まず出演者は外部の役者から決まっていき、残った配役について出演を検討することになり、かつ劇団員らは公演への出演を希望して劇団員となっているのであり、これを断ることは通常考え難く、仮に断ることがあったとしても、それは被控訴人の他の業務へ従事するためであって、前記のとおり、劇団員らは、本件劇団及び一審被告から受けた仕事は最優先で遂行することとされ、一審被告の指示には事実上従わざるを得なかったのであるから、諾否の自由があったとはいえない。また、劇団員らは、劇団以外の他の劇団の公演に出演することなども可能とはされていたものの、少なくとも一審原告については、裏方業務に追われ、他の劇団の公演に出演することはもちろん、入団当初を除きアルバイトすらできない状況にあり、しかも外部の仕事を受ける場合は必ず副座長に相談することとされていたものである。その上、勤務時間及び場所や公演についてはすべて一審被告が決定しており、一審被告の指示にしたがって業務に従事することとされていたことなどの事情も踏まえると、公演への出演、演出及び稽古についても、一審被告の指揮命令に服する業務であったものと認めるのが相当である(一審原告が本件劇団を退団した後に制定された一審被告の就業規則によれば、出演者が出演を取りやめる場合は代役を確保することが求められており、一審原告が本件劇団在籍中も同様であったものと窺われる。)。 これに対し、一審被告は、〈1〉公演への出演に当たっての稽古には場所的拘束は存在しない、〈2〉本件劇団の劇団員は、作成された年間スケジュールの中から自らが参加したい演目に自由に参加希望を出すことができ、公演への出演は任意であった、〈3〉本件劇団の劇団員は、業務マニュアルに拘束されるものでなければ、同マニュアル通りに活動しているか否かを管理されるものでもないから、時間的拘束も存在しない旨主張する。 しかしながら、仮に稽古の場所が本件各劇場以外の場合もあったとしても、稽古自体は当然本件劇団の指示に従って行うものであるし、公演の演目に出演すること自体が任意であったとしても、出演して演技を行うに当たって本件劇団の指揮命令が及ぶことは前記説示のとおりである。一審被告の上記主張は採用できない。 |