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ID番号 09382
事件名 無期転換逃れ地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本通運事件
争点 雇止めの無効
事案概要 (1) 本件は、被告(日本通運株式会社)との間で、通算5年10箇月、更新回数は7回の有期労働契約を締結していた原告は、被告が業務が受託できずに事業所が閉鎖されることに伴い、期間を平成29年9月1日から平成30年3月31日までとした労働契約8が更新されず、被告から雇止めされた。そのため、原告と被告の労働契約は労働契約法19条1号又は2号の要件を満たしており、雇止めについて客観的合理的な理由も社会通念上相当性もないため、従前の労働契約の内容で契約が更新されたと主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき賃金の支払い等を求めた事案である。
(2) 判決は、雇止めを有効として、原告の請求を退けた。
参照法条 労働契約法19条
体系項目 解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年10月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)10238号
裁判結果 一部却下、一部棄却
出典 労働判例1236号16頁
労働経済判例速報2438号3頁
労働法律旬報1988号66頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)原告と被告との労働契約が実質的に期間の定めのない契約と異ならない状態に至っていたとは認め難く、当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を解雇により終了させることと社会通念上同視できると認められる場合(労契法19条1号)には該当しない。
(2)労契法19条2号の「満了時」は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた労働契約の満了時までの間における全ての事情が総合的に勘案されることを示すものと解されるから、いったん労働者が雇用継続への合理的期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解される。
 本件のように契約書に不更新条項等が記載され、これに対する同意が更新の条件となっている場合には、労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係を終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られるため、労働者が不更新条項を含む契約書に署名押印する行為は、労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問があり、契約更新時において労働者が置かれた前記の状況を考慮すれば、不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為があることをもって、直ちに不更新条項等に対する承諾があり、合理的期待の放棄がされたと認めるべきではない。労働者が置かれた前記の状況からすれば、前記行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り(最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁(山梨県民信用組合事件)参照)、労働者により更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべきである。
 被告の管理職が、原告に対し、被告運用基準の存在や不更新条項等の法的効果について説明したことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告は、労働契約7の締結の際、管理職に対し、不更新条項等について異議を留めるメールを送っている。そうすると、労働契約5から8までの不更新条項等の契約書に署名押印する行為が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が、客観的に存在するとはいえない。
 したがって、仮に原告の雇用継続の期待が合理的であるといえる場合であっても、原告が、労働契約5から8までの契約書に署名押印したことをもって、その合理的期待を放棄したと認めることはできない。
 また、当該有期労働契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないから、不更新条項等の存在をもって直ちに労契法19条2号の該当性が否定されることにはならない。
(3)労働契約1から7までは、Q2事業所におけるQ3の商品配送業務を被告が受注する限りにおいて継続する性質の雇用であったところ、被告が同業務を受注できず事業所を閉鎖して撤退するに至ったため、労働契約7の締結前に、原告が、被告の管理職から、被告がQ3の商品配送業務を失注し事業所を閉鎖する見込みとなり、次期契約期間満了後の雇用継続がないことについて、個人面談を含めた複数回の説明を受け、被告に代わりQ3業務を受注した後継業者への移籍ができることなどを説明され、契約書にも不更新条項が設けられたことにより、労働契約7の締結の時点においては、それまでの契約期間通算5年1箇月、5回の更新がされたことによって生じるべき更新の合理的期待は、打ち消されてしまったといえる。そして、労働契約8締結時も、契約書に不更新条項が設けられ、管理職が、原告に対し、契約期間満了後は更新がないことについて説明書面を交付して改めて説明を行ったことにより、合理的な期待が生じる余地はなかったといえる。
 したがって、労働契約8の期間満了時において、原告が、被告との有期労働契約が更新されるものと期待したとしても、その期待について合理的な理由があるとは認められない。