全 情 報

ID番号 09389
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東神金商事件
争点 退職金規程の不利益変更
事案概要 (1) 本件は、土木建築資材の販売等を営む被告(東神金商株式会社)が、原告X11を含む従業員に対し、平成13年頃、被告の退職金制度を廃止することなどを説明したものの、旧就業規則は平成13年以降平成26年10月頃まで変更されずに、平成26年10月頃に、退職金を支給しない旨の新就業規則、新賃金規程を定めた(その後これを変更し新退職金規程も定めた。)ところ、その後の平成30年に退職した原告X11、原告X12が被告に対し、新就業規則、新賃金規程は合理的なものではないなどとして、旧就業規則に基づき、それぞれ退職金等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、新就業規則及び新賃金規程の退職金規定部分は、合理的なものとは認められず、原告らと被告との間の労働契約の内容とはならないとして、被告に退職金の支払いを命じた。
参照法条 労働契約法9条
労働契約法10条
体系項目 就業規則 (民事)/就業規則の一方的不利益変更/ (2) 退職金
裁判年月日 令和2年10月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)30034号/令和1年(ワ)30035号
裁判結果 一部認容、一部棄却(30034号)、認容(30035号)
出典 労働判例1245号41頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔就業規則 (民事)/就業規則の一方的不利益変更/ (2) 退職金〕
(1)被告は、平成13年頃、既に原告X11を含む従業員全員の同意を得て、退職金制度を廃止していた旨主張しているが、将来の退職金を失わせるという不利益の大きさに鑑み、その同意の有無については慎重に判断せざるを得ないところ、まず、原告X11を含む被告の従業員と被告との間で、退職金制度の廃止に同意する旨の書面は取り交わされていないこと、原告X11を含む従業員は、退職金制度の廃止の説明を受けた際、特に異議を述べておらず、退職金支払のための積立型保険の解約返戻金も受領しているけれども、従業員としての立場を考えると、そのことから直ちに退職金制度の廃止自体にまで同意していたとまではいえない。
 仮に、原告X11を含む従業員が形式上被告の退職金制度の廃止に同意したと見られる行為を行っていたとしても、同廃止は、被告が自社ビルを約3億円で購入し、その借金が嵩んだことを主たる要因とするものであって、そのような理由で退職金を廃止されることに労働者が同意するとは考え難い。したがって、このような行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえず、原告X11の同意があったものとすることができない(最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁〈山梨県民信用組合事件-注〉等参照)。
 したがって、原告甲野を含む被告の従業員が被告の退職金制度の廃止を同意していたとは認められない。
(2)被告が平成26年10月頃の時点において、被告の退職金を廃止しなければならない経営状況であったなどの事情は見当たらない。また、平成26年10月頃の時点では、原告らの被告における勤続年数が10年を超え、基本退職金額が既に140万円を超えていたのであるから、退職金の廃止による不利益は大きい。
(3)被告代表者は、原告X12のほか、平成13年以降に新たに採用する従業員に対しては、退職金がないと説明した旨供述し、原告X12も、採用時に退職金があるとの説明はなかった旨供述している。しかしながら、原告X12採用時の被告の就業規則の定めが旧就業規則のとおりである以上、原告X12にその認識がなくとも労働契約の内容となっているといわざるを得ず(労働契約法12条)、原告X12に対する採用時のこのような説明内容は、上記判断には影響しない。
(4)新就業規則及び新賃金規程の退職金規定部分は、合理的なものとは認められず、原告らと被告との間の労働契約の内容とはならない(労働契約法9条、10条)。なお、新就業規則及び新賃金規程を前提に、これを変更して定められた新退職金規程についても、上記と同様である。