全 情 報

ID番号 09392
事件名 未払残業代等請求事件
いわゆる事件名 日本代行事件
争点 運転代行業務ドライバーの労働者性
事案概要 (1) 本件は、被告(㈱日本代行)が運営する運転代行業務に従事していた原告らが、原告らと被告との契約が雇用契約であるとの前提に立った上で、原告らが時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金、労基法114条に基づく付加金等の支払を求めるとともに、被告が賃金支払の際に、「共済会領収書」、「値引平日」、「クリーニング代」、「事故修理代等」の名目で控除したことが賠償予定の禁止及び賃金の全額払いの原則に反するとして、雇用契約に基づきその支払を求める事案である。
(2) 判決は、原告らと被告との契約の性質は雇用契約ではないとして、原告らの請求を棄却した。
参照法条 労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/2 労働者/ (2) 委任・請負と労働契約
裁判年月日 令和2年12月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)5323号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1243号51頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/2 労働者/ (2) 委任・請負と労働契約〕
(1)被告においては、原告らを含むドライバーは、毎週木曜日までに翌週の出社予定について、定型の書式を用いて、各日ごとに「出社」、「連絡」、「休み」の三種類から選択して記入するという方法で連絡することになっていたところ、かかる体制から明らかなとおり、ドライバーは、出社する日を自由な意思で決定することができるとされていたものであり、原告らが出社を希望したにもかかわらず、被告から出社を拒否されたあるいは原告らの意思に反して出社を命じられたというような事情はうかがわれない(このことは、原告らが「連絡」として届け出た日について、被告から出社の打診があった場合についても同様であるといえる。)。
 また、同従業員はタイムカードを打刻することとされているのに対し、原告らを含むドライバーはタイムカードを打刻することとされていない。
 そうすると、原告らを含むドライバーは出社するか否かを自らの意思で自由に決定することができていたものであり、また、労働時間も把握されていなかったものであるから、勤務日・勤務時間について拘束されていなかったということができる。
(2)原告らを含むドライバーは、番号札を取ったり、運転代行業務に使用する車両を手に入れるため最初に被告事務所に赴く必要があるが、その後は、被告の事務所で待機して打診を待つことも、歓楽街等で打診を待つことも自由であったのだから(歓楽街で待機していれば、周囲の飲食店で飲酒して出てきた酔客から、直接代行業務の申込みを受けることが可能となり、番号札の順番に従って打診を受けるより早く代行業務に従事することもあり得るから、歓楽街で待機するということもあり得るといえる。)、勤務場所についても拘束されていなかったということができる。
 原告らを含む各ドライバーは被告からの打診を受けて運転代行業務に従事するところ、どのような経路で顧客の指定する場所まで赴くか、運転代行業務終了後、どこで待機するか、待機場所まで戻る際に高速道路を使用するか否かなどは各ドライバーが自由に決めていたものである。そうすると、運転代行という業務の遂行方法について、被告から各ドライバーに対する個別具体的な指示はなされていなかったということができる。
(3)原告らを含むドライバーが出社日を自由に決定することができていたことからすれば、原告らを含むドライバーはある日について業務を受けるか否かの諾否の自由を有していたといえる。
(4)各ドライバーの事情(例えば、被告での業務が副業であった場合、本業の出勤時間との兼ね合いなどが想定される。)から、一定の時間になれば自らの意思で以降の運転代行業務に従事しないこととするなどという諾否の自由を有していたことがうかがわれる。
(5)被告が、原告らを含むドライバーに対して支払う報酬は、運転代行業務の売上額に応じてその金額が決まる完全歩合制となっていたものであるから、労務提供時間の長さとは無関係なものであったといえる。そうすると、原告らが支払を受ける報酬は、労務対償性が弱かったことになる。
(6)被告は、各ドライバーに報酬を支払うにあたって、社会保険料及び公租公課の控除を行っておらず、事務室の談話室のトイレ横に紙を貼って、運送業一人親方特別加入を案内したり、確定申告の相談窓口として、税理士事務所を紹介するなどしているところ、これらの事情も報酬の労務対償性がなかったことをうかがわせる事情であるといえる。
(7)被告で運転代行業務に従事するドライバーは、副業として従事している者が多かったことがうかがわれ、そうであれば、被告で運転代行業務に従事していたドライバーには専属性がなかったことになる。
(8)以上を総合考慮すれば、本件において、原告らが、被告の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできないから、原告らと被告との契約が雇用契約であったということはできない。