全 情 報

ID番号 09393
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 フーリッシュ事件
争点 タイムカード打刻時刻と始業・終業時間
事案概要 (1)本件は、被告(株式会社フーリッシュ)の従業員であった原告が、被告に対し、①タイムカードの時刻を始業・終業時刻とし、②午前11時から午後3時までの間の休憩時間とされている時間も働いていたこと、③固定残業代の定めは無効であるなどとして、未払の割増賃金及び労基法114条に基づく付加金などの支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の訴えのうち①と②の一部の主張を認め、③は認めず、被告に対し未払賃金と付加金の支払などを命じた。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間の概念/ (10) タイムカードと始終業時刻
賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給
裁判年月日 令和3年1月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)第10133号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1255号90頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間の概念/ (10) タイムカードと始終業時刻〕
(1)原告は、出退勤時にタイムカードを打刻していたことが認められるから、基本的にタイムカードの打刻時刻をもって原告の出勤時刻及び退勤時刻と認めるのが相当である。
 もっとも、タイムカード上打刻がなく、原告が時刻を手書きで記載している日があるところ、これらの時刻に原告が出退勤したことを裏付けるに足りる証拠はない。だとすれば、これらタイムカードの打刻がない日については、基本的に、手書きで記載された時刻が所定の始業時刻より早いか所定の終業時刻より遅い場合には所定の始業又は終業時刻をもって出退勤時間と認め、手書きで記載された時刻が所定の始業時刻より遅いか所定の終業時刻より早い場合には手書きで記載された時刻をもって出退勤時間と認めるのが相当である。
(始業時刻)
 原告は、所定の始業時刻より前の時間についても労働時間に当たると主張し、出勤後、制服に着替えた上でタイムカードを打刻し、午前6時30分頃に作業を開始していたと陳述する。しかしながら、認定した出勤時刻は、平成30年12月24日を除き、ほぼすべての日において所定始業時刻の10分前から10分後までの間となっていることからすると、被告が原告に対して早出を命じているとは考えにくく、原告が、被告から出勤時間について厳密に指導されていたわけではないと陳述していることにも照らすと、被告が原告に対して早出を命じていたと認めることはできず、ほかに被告が原告に始業時刻前の早出残業を指示したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告が午前6時30分より前に出勤した場合の出勤時刻から所定始業時刻である午前6時30分までの間は労働時間と認めることはできない。 (終業時刻)
 原告は、所定の終業時刻後も、菓子の製造作業や清掃等の業務に従事していたものと認められ、かかる業務への従事につき、少なくとも被告の黙示の指示命令があったと推認されるから、退勤時刻をもって終業時刻と認めるのが相当であり、この認定を左右するに足りる他の証拠はない。
(2)原告は、被告が休憩時間と主張する午前11時から午後3時までの間を含めて業務に従事しており、休憩時間は1時間程度であった旨の主張しており、その内容に特段不自然な点はないものの、これを裏付けるに足りる他の客観的な証拠はないことからすると、直ちにはこれを採用できないが、被告が原告の労働の具体的な状況について何ら主張していないことなど弁論の全趣旨をも考慮し、原告は、午前11時から午後3時までの間についても業務に従事していたと認めるものの、始業時刻から終業時刻までの間に少なくとも1日につき1時間30分の休憩時間を取得していたものと認めるのが相当である。
〔賃金 (民事)/割増賃金/ (6) 固定残業給〕
(3)原告に支払われていた固定残業手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する割増賃金として支払われるものとされていたと認められ、かつ、当該手当が基本給とは別に定められていることからすると、その全額が時間外労働等に対する対価として支払われるものであることを明確に判別することができるといえるから、被告による固定残業手当の支払をもって、時間外労働等に対する賃金の支払とみることができるというべきである。
 原告は、被告が、毎月の賃金の支給に際し、支給された固定残業代が何時間分の時間外労働の対価として支払われたものであるかを明示していないこと、原告と被告との間で、当該固定残業代で賄われる時間外労働時間数を超えて時間外労働が行われた場合に別途精算する旨の合意がなく、その旨を就業規則で周知してもいなかったことをもって、固定残業代の定めは無効である旨主張するが、それらの事情が存するとしても、上記認定を左右しない。原告の主張は採用できない。