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ID番号 09402
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 医療法人社団 和栄会・秀栄会事件
争点 懲戒権の濫用、解雇の有効性
事案概要 (1)被告(医療法人社団和栄会・秀栄会)の医師である原告が、被告らとの間で、勤務先をB腎クリニック及びC病院とする令和2年4月1日から令和3年3月31日までの期間を定めた雇用契約を締結した。原告は、勤務初日の令和2年4月1日に、硬質の素材でできた防塵マスク、青色のゴム手袋を着用した状態(以下「本件装備」という。)で就労し、透析患者らに自己紹介をしたり、C病院の関係者に挨拶回りをしたりしたこと。これが、患者及び近親者の不安をいたずらに惹起し、礼儀を軽んじて職場の秩序を乱し、B腎クリニックに甚大な損害を及ぼしたとして、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして着任した日に被告より即日懲戒解雇されたため、原告が解雇権の濫用であるとして、雇用契約上の地位の確認並びに賃金の支払を求めた事案である。
(2)判決は、原告が本件装備を着用して病院内で挨拶回りなどをしたことが、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当すると認めることはできないとして、解雇を無効とし賃金の支払を命じた。
参照法条 労働契約法15条
労働基準法20条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用
裁判年月日 令和3年1月28日
裁判所名 さいたま地
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)第1141号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働経済判例速報2448号13頁
D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用〕
(1)原告が令和2年4月1日に本件装備を着用して病院内で挨拶回りなどをしたことが、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当すると認めることはできない。
(2)被告の主張する損害や不都合は、原告の姿が奇異であったことから、数名の来訪者から職員に対して新型コロナウイルス感染者が出たのかといった問い合わせがあったというようなものであるが、このような問い合わせがあったことを客観的に裏付ける証拠はないばかりか、仮にかかる問い合わせがあったとしても、被告に重大な損害が生じたというには足りないし、本件装備の着用自体が患者に対する不都合な行為に当たるということもできない。その他、本件全証拠をもっても、原告の上記行為によって、具体的な損害が生じたこと、被告の患者に対して何らかの不自由、不都合が生じたことを認めるに足りる証拠はない。
(3)原告の着用していたマスクは医療現場向けでない大仰な形状もので、奇異に感じる者がいるかもしれないが、被告において職員の服装に関する特段の規則はないこと、原告は白衣を着用しており、マスクの点を除いて特段奇異な服装をしていたとはいえないことに加え、当時、未知のウイルス感染が拡大傾向にあり、マスクが入手困難な状況であったことは公知といえること、被告において代替のマスクを提供する等の対応をしなかったこと等を併せ考えれば、本件装備が「破廉恥行為」に当たるということはできない。