ID番号 | : | 09403 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人梅光学院(給与減額等)事件 |
争点 | : | 就業規則の不利益変更による賃金減額 |
事案概要 | : | (1)被告(学校法人梅光学院)が設置する梅光学院大学(以下「本件大学」という。)において、教員として勤務し又は勤務していた原告らが、経営難を理由にして平成28年4月1日以降に適用される大学教員給与規程(新就業規則)による給与及び退職金規定の減額変更が、労働契約法10条に反し、無効であると主張し、被告に対し、それぞれ本件変更により具体的に減額された平成28年4月から令和2年8月までの未払の給与や賞与、退職金の支払を求めている事案である。 (2)判決は、新就業規則の変更は合理的なものといえないとして、原告らの主張を認め、不足分の賃金等の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 労働契約法第10条 |
体系項目 | : | 就業規則 (民事)/ 就業規則の一方的不利益変更 |
裁判年月日 | : | 令和3年2月2日 |
裁判所名 | : | 山口地下関支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成29年(ワ)190号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1249号5頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則 (民事)/ 就業規則の一方的不利益変更〕 (1)新就業規則への変更は、被告も認めるとおり、1割から原告らによっては2割を超える年収の減額が生ずるものである。そうすると、新就業規則への変更による不利益の程度は、相当程度大きいものといわざるを得ない。 (2)被告の採算性を見直す必要があり、経費の削減を検討すること自体の合理性は否定できないが、被告の主張するように、資金が約10年でショートする状態であったと認定することはできず、財政上、極めて危機的な状況に瀕していたとはいえないから、労働者が不利益を受忍せざるを得ないほどの高度の必要性があったとは認定できない。 (3)新就業規則への変更で、本俸の算定方法が能力主義的体系の採用として年齢給と職能給から成ることに変更されただけでなく、扶養手当の支給額が減額され、住宅手当が廃止され、職務手当も項目と額が変更され、通勤手当の上限額も変更されていることが認められる。これらの各種手当は、扶養家族の有無や住居に要する費用等を条件に支給されていたものであり、能力主義的な体系を採用する必要があるとしても、これらの手当を廃止又は減額しなければならない合理的な理由は見当たらない。また、退職金については、能力主義的賃金体系の採用として、算定の基礎となる給与の範囲が本俸のみに限定されているが、上記能力主義の採用の帰結として、算定の基礎となる給与の範囲を本俸のみに限定する合理的な理由はなく、これについては格別の代償措置も講じられていない。 能力主義的な体系を採ることの当否はさておき、調整給という代償措置が講じられていることを踏まえても、被告の労働者の被る不利益の大きさに照らすと、本件新就業規則の内容の相当性があるとはいい難い。 (4)少子化などにより、数多くの私立大学が構造的な不況に見舞われる中で、被告も、少なくとも平成22年度以降、毎年多額の帰属収支差額の赤字を計上し、本件大学の建物等の設備の改築のために多額の支出を必要とする状況にあったことなどから、被告の経営状態は厳しいものであり、想定される最悪の状況に備えて、収支の改善に向けて対応しようとする経営判断自体は合理的であり、労働組合との交渉の状況等の手続にも特段問題は見当たらない。しかしながら、被告が極めて危機的な財政状況にあったとはいえず、労働者が不利益を受忍せざるを得ないほどの高度の必要性があったとまでは認め難く、本件新就業規則の内容についても相当性があったとは言い難いことを踏まえると、本件新就業規則の変更は合理的なものであったと認めることはできない。 |