ID番号 | : | 09404 |
事件名 | : | 留学費用返還請求事件 |
いわゆる事件名 | : | みずほ証券事件 |
争点 | : | 自己都合退職による留学費用返還の必要性の有無 |
事案概要 | : | (1)原告(みずほ証券株式会社)の従業員であった被告が、誓約書(「留学期間中にみずほ証券株式会社を特別な理由なく退職する場合あるいは解雇される場合、また、留学終了後5年以内に、留学後復帰したみずほ証券株式会社及びみずほ証券グループ会社(その後のみずほ証券グループ内での異動先会社を含む)を特別な理由なく退職する場合あるいは解雇される場合には、当該留学に際し貴社が負担した留学に関する以下の費用を退職日までに遅滞なく弁済することを誓約いたします。」とするもの)に自ら署名押印した上で、原告の公募留学制度を利用して留学し留学終了後5年以内に原告を自己都合で退職した。そのため、原告が、被告に対し、主位的に、被告が留学した際に原告が支出した留学費用は、原告が被告に貸し渡した貸金であると主張して、消費貸借契約に基づき、留学費用3045万0219円等の支払を求め、予備的に、原告・被告間には、被告が負担すべき留学費用相当額を原告が被告に代わって一旦支出し、被告が留学終了後5年間原告及び原告のグループ会社で就労する場合を除き、被告が原告に対して留学費用相当額を弁済する旨の無名契約が成立していたと主張して、同契約に基づき、留学費用相当額3045万0219円等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、原告と被告との間には特約付きの消費貸借契約が成立していると認め、この契約は労働基準法16条には違反しないとして、被告に留学費用等の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法第16条 労働契約法第12条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 賠償予定 |
裁判年月日 | : | 令和3年2月10日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(ワ)5764号 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例1246号82頁 労働経済判例速報2450号9頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 増田陳彦・労働経済判例速報2450号8頁2021年7月30日 折田健市郎・金融法務事情2185号22~25頁2022年5月10日 |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 賠償予定〕 (1)被告は、留学費用の支給は、原告の就業規則である人事事務手続書等に基づいて支給されたものであるから、当該支給は、消費貸借契約ではなく、原告・被告間の雇用契約に基づいて支給されたものであり、本件誓約書に基づく合意は労働契約法12条(就業規則違反の労働契約)によって無効である旨主張するが、人事事務手続書は、海外勤務者等の服務、給与、手当、福利厚生等について必要な事項を定めたものであり、ここでいう海外勤務者等とは、発令に基づき本邦外で勤務・留学・研修している職員等と定義付けられているところ、被告を含む公募留学生は発令に基づき留学している者ではないから、人事事務手続書の規程が適用される対象ではない。 (2)原告と被告との間には、被告の留学に関して原告が負担した費用の全てについて、被告が留学終了後原告に5年間勤務した場合にはその返還債務を免除する旨の特約付きの消費貸借契約が成立していると認められる。 (3)労働基準法16条が、使用者が労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約をすることを禁止している趣旨は、労働者の自由意思を不当に拘束して労働関係の継続を強要することを禁止することにある。そうすると、会社が負担した留学費用について労働者が一定期間内に退社した場合に返還を求める旨の合意が労働基準法16条に違反するか否かは、その前提となる会社の留学制度の実態等を踏まえた上で、当該合意が労働者の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものか否かによって判断するのが相当である。 (4)本件留学制度を利用した留学は、原告の業務と直接関連するものではなく、また、原告での担当業務に直接役立つという性質のものでもないといえる。むしろ、被告を含む公募留学生は、本件留学制度を利用した留学によって原告での勤務以外でも通用する有益な経験や資格等を得ている。そうすると、本件留学制度を利用した留学は、業務性を有するものではなく、その大部分は労働者の自由な意思に委ねられたものであり、労働者個人の利益となる部分が相当程度大きいものであるといえ、その費用は、本来的には、使用者である原告が負担しなければならないものではない。 したがって、留学費用についての原告・被告間の返還合意は、その債務免除までの期間が不当に長いとまではいえないことも踏まえると、被告の自由意思を不当に拘束し、労働関係の継続を強要するものではないから、労働基準法16条に反するとはいえない。 |