全 情 報

ID番号 09405
事件名 残業代請求事件
いわゆる事件名 三井住友トラスト・アセットマネジメント事件
争点 管理監督者性、時間外労働時間数
事案概要 (1)被告に期間1年の有期労働契約の専門職として契約更新されて就労している原告が、被告に対し、原告は労働基準法41条2号の管理監督者には該当しないとして、〈1〉労働契約に基づく賃金請求として、平成28年1月4日から令和元年7月31日までの未払残業代等、〈2〉労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告は労働基準法41条2号の管理監督者とは認められないとして、時間外労働に対する割増賃金と付加金の支払を命じた。
参照法条
体系項目 労働時間 (民事)/ 労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者
裁判年月日 令和3年2月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)26644号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1248号42頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 折田純一・労働法律旬報2005号24~30頁2022年4月10日
判決理由 〔労働時間 (民事)/ 労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者〕
(1)管理監督者該当性の判断に当たっては、〈1〉当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、〈2〉自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、〈3〉給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである。
 上記の労基法41条2号の趣旨からすれば、このような観点から判断すべきことは、スタッフ職について管理監督者に該当するか否かを検討する際にも同様であると解される。
 なお、被告は、行政解釈(旧労働省の昭和63年3月14日基発第150号)を根拠に、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していること、ライン管理職と同格以上の位置づけとされていることがスタッフ管理職の要件であると解すべきである旨主張するが、後者は上記〈3〉と同旨の要件と解され、前者は前記労基法41条2号の趣旨からすれば、単に経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当しているというだけでは足りず、その職務と責任が、経営者と一体的な立場にあると評価できることが必要と解されることからすれば、上記〈1〉の観点の中で考慮されるべき一つの要素と解される。
(2)原告の担当する業務は、ファンドマネージャー等が示した見解を前提とした月次レポート等の内容に誤りがないかを確認したり、当該見解を踏まえてレポートを作成する業務であって、専門的かつ重要な業務ではあるものの、企画立案等の業務に当たるとはいえず、また、これらの業務が部長決裁で足りるとされていることからすれば、経営上の重要事項に関する業務であるともいえない。また、原告は、所属する部署の管理者ミーティング等に参加しておらず、月報関連業務以外に当該部署の業務を担当していたことは認められないほか、部下もおらず、人事労務管理業務に従事していたとは認められない。
 以上によれば、原告が経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していたとは認められず、また、人事労務管理業務も担当していないことからすれば、原告が、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとは認められない。
(3)原告は、自己の労働時間について一定の裁量があり、管理監督者に相応しい待遇(年俸は約1270万円、基本給部分が1140万円))がなされているものの、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとは認められないことからすれば、原告が、管理監督者に該当するとは認められない。
(4)少なくとも所定労働時間内の在社時間は、業務日誌に記載された業務内容にかかわらず、被告の指揮命令下にあったものと推認することができ、労働時間に当たると認められる。
所定始業時刻より前にパソコンを起動したログイン記録があるとしても、所定始業時刻前の時間につき、被告の指揮命令下にあり、労働時間に当たると認めることはできない。
(5)原告の業務日誌に記載された各業務について、労働時間に当たらない時間が多数記載されているとはいえず、原告は、所定終業時刻後も引き続きパソコンを使用して各業務を行い、被告の指揮命令下にあったと推認できることからすれば、原告の本件請求期間における終業時刻は、パソコンのログオフ時刻であると認めるのが相当である。