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ID番号 09408
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 リクルートスタッフィング事件
争点 有期雇用労働者と無期雇用労働者の通勤手当の相違
事案概要 (1)人材派遣事業等を業とする被告(株式会社リクルートスタッフィング)との間で、派遣等による就労の都度、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結し、派遣先事業所等において業務に従事していた原告が、被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している従業員(以下「無期労働契約社員」)と原告との間で、通勤手当の支給の有無について労働条件の相違が存在し、同相違は労働契約法20条に反する違法なものであり、同相違に基づく通勤手当の不支給は不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成26年9月1日から平成29年6月30日までの間の就労に関する上記相違に係る通勤手当相当額合計59万7320円等の支払を求める事案である。
(2)判決は、本件相違は労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできないとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法第20条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇
裁判年月日 令和3年2月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)1039号
裁判結果 棄却
出典 判例時報2493号64頁
判例タイムズ1498号135頁
労働判例1246号5頁
労働経済判例速報2451号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴 (大阪高判:令和4年3月15日控訴棄却)
評釈論文 平越格・労働経済判例速報2451号2頁2021年8月10日
冨岡俊介・経営法曹212号37~50頁2022年6月
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇〕
(1)被告における通勤手当ないし交通費の支給は、〈1〉配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするという趣旨と〈2〉配転命令を受けない職員に対しては、魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨を有するものと解される。
(2)本件相違は、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるというべきである。
(3)派遣スタッフ等としての原告とR職社員の職務の内容及び配置の変更の範囲は、大きく異なるものであったというべきである。
(4)被告において、派遣スタッフ等になろうとする登録者は、自己の希望する条件(職種、就業可能日数、勤務時間、交通費、希望する職場環境[規模、喫煙又は完全分煙等、オフィススタイル]等の働き方)を特定して登録した後、被告により提案ないし提示されるJOB(登録者の希望条件に沿った就業条件等の派遣業務)の中から、自らの希望に従い、通勤交通費の支給はないが高額の時給単価のJOBを選ぶことも、多少時給単価が低めでも通勤交通費の支給があるJOBを選ぶことも可能であるところ、原告についてもJOB等を選択する際、自身の経験・能力を生かせる仕事であるか、安定した仕事であるかに加え、待遇面に関して、1日の時給合計額から往復の交通費を差し引いた金額を勤務時間数で除した時間給がいくらであるかという点を重視して、当該JOB等に従事して就労するか否かを決めていたのであるから、当該JOBごとの労働条件を吟味した上で就労するか否かを決定していたといい得る。
(5)原告が得ていた時給額はアルバイト・パートの平均時給額よりも相当程度高額であり、その差額は、各JOBにおいては原告が通勤に要した交通費を支弁するのに不足はないものであり、また、受託業務においても100円程度上回っており、原告が通勤に要した交通費の相当部分を補うのに足りるものであったと認められる。また、派遣スタッフ等の時給は、無期転換スタッフの時給・通勤手当、調整手当と同程度である。
 そうすると、原告が得ていた時給額は、一般的にみて、その中から通勤に要した交通費を自己負担することが不合理とまではいえない金額であったということができる。
(6)被告の無期労働契約社員と有期労働契約社員である原告についての業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を踏まえると、本件相違は、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできない。