全 情 報

ID番号 09409
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 オーイング事件
争点 割増賃金の基礎、労働時間性、変形労働時間制
事案概要 (1)原子力発電所であるF発電所の警備を行っていた警備会社(被告)と雇用契約を締結し、F発電所において、周辺・呼出警備隊の警備員として勤務していた原告ら12名が、退職後に、①割増賃金の選定基礎に原発手当てが算入されていないこと、②通勤時間が労働時間であること、③朝礼時間が労働時間であること、④休憩時間が労働時間であること、?変形労働時間制の適用がされないことから、賃金の支払いが不足しているとして未払賃金等の請求をした事件である。
(2)判決は、②の原告の主張を認めなかったが、①③④⑤については原告の主張を認め、未払賃金等の支払を命じた。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当
労働時間 (民事)/ 1労働時間の概念
労働時間 (民事)/ 変形労働時間/(1) 一カ月以内の変形労働時間
裁判年月日 令和3年3月10日
裁判所名 福井地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)第98号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕
(1)原電手当については、被告の賃金規程に記載はないこと、被告の担当者において、原電手当の趣旨は、当初8時間勤務で1時間休憩となっていたところ、30分ずつ2回の合計1時間の休憩時間を増やしたことで、労働時間が1時間減ったのであるが、賃金がその分減ることの緩和措置として、手当の支払をしている旨説明がなされていることが認められる。
 同説明の趣旨からすれば、原電手当が時間外労働等に対応する手当であったとは認められない。そして、原電手当が除外賃金(労基法37条5項、同法施行規則21条1号ないし5号)に該当するとも認められない以上、原電手当は、同法37条1項の「通常の労働時間又は労働日の賃金」に該当し、割増賃金の算定基礎になるというべきである。
〔労働時間 (民事)/ 1労働時間の概念〕
(2) 各集合場所とF発電所の間の被告社有車の移動時間については、原告らは、他の従業員を乗せて社有車の運転を行う場合もあったとはいえ、社有車内で業務を行うことはなかったことからすると、自家用車等で通勤する場合と差異はないといえる。また、原告らは、入門証につき、入門証持出・返却記録簿に日時を記載することを義務付けられており、入門証を紛失した場合には、始末書の提出を義務付けられていたものの、これは、入門証はもともと被告従業員が自ら管理していたところ、紛失のおそれが生じたことから、原子力発電所における入門証の重要性に鑑み、被告から指示が出されたことによるものであり、原告らが入門証の管理について被告の指示に従っていたことから直ちに、原告らが上記移動時間中に被告の指揮命令下に置かれていたとはいえない。ほかに、被告により乗車する従業員や給油場所が決められていたこと、集合場所の雪かきが求められていたことが認められるが、これらは社有車を無償で使用するに当たっての通常の作業の範囲と解され、自家用車等で通勤する場合と比較して負担が重くなったり自由の制約が大きくなったりするとはいえないから、これらの事実をもって、原告らが上記移動時間中に被告の指揮命令下に置かれていたとはいえない。
 以上より、原告らが主張する各集合場所と同発電所までの移動時間については、これを労働時間と認めることはできない。
(3) 午前8時に呼出周辺巡回業務を開始する警備員を対象に午前7時半頃から朝礼が行われていたこと、朝礼において、前日からの引継ぎや業務に関する注意喚起など、業務遂行に必要な連絡等が行われていたこと、朝礼に参加しない場合において注意を受けるということもあったことが認められる。これらの事実からすれば、同業務を担当する警備員は、被告から午前8時に同業務が開始する日について午前7時半からの朝礼の出席を義務付けられていたと認めるのが相当である。
 そして、前記認定事実によれば、朝礼の時間それ自体としては、平日15分から20分程度、土日は10分程度であるが、朝礼終了後、警備員はその日のそれぞれの配置場所に移動した上で勤務を開始していたことからすると、朝礼及びその後の配置場所までの移動までの行動も含めて、被告の指揮命令下に置かれていたものと認められるから、呼出周辺巡回業務を担当する警備員において、午前8時に同業務を開始する日の朝礼開始後業務開始までの30分間は労基法上の労働時間に該当するものと認めるのが相当である。
(4) 被告作成に係る休憩時間のローテーション表は存在していたが、原告らが、昼食を取った後の時間において、全員の昼食を取る時間を確保するために、他の警備員と交代していたことも少なくなく、他の者の昼食のため交代した後は、午後1時を過ぎることが多く、代替の休憩が取れない場合もあったこと、一定の時間帯において、PHSに連絡してよい従業員とそうでない従業員を分けておらず、食事中にPHSに連絡が入りゲートの開閉等の業務に当たる従業員もいて、昼食を取れない場合もあったことが認められる。また、各警備員の指揮・監督等をしているE専任隊長が、自分の部屋に貼られているローテーション表どおりに、各警備員が休憩時間を取っているかを把握していないこと(乙5、証人E)からすれば、昼の60分の休憩を確保するという意味においてローテーションは機能していなかったといえる。
 そうすると、原告らは、昼の60分の休憩時間全体において、ゲートの開閉等の業務について、直ちに対応することが義務付けられており、労働からの解放が保障されているとはいえず、原告らは、被告の指揮命令下に置かれていたといえる。したがって、昼の60分の休憩時間とされた時間は、労基法上の労働時間に該当するものと認めるのが相当である。
夜勤の休憩時間も同様。
〔労働時間 (民事)/ 変形労働時間/(1) 一カ月以内の変形労働時間〕
(5) 被告の就業規則には、警備業務職においては、毎月16日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、変形期間を平均して1週当たり40時間を超えない範囲とする、勤務時間は毎月の起算日の1週間前までに現場ごとに定めるとされている。
 しかし、被告の就業規則においては、変形労働時間制における各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法がいずれも定められていない。
以上によれば、被告が採用する変形労働時間制は、労基法32条の2第1項の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足していないから、1か月単位の変形労働時間制が原告らに適用されるとする被告の主張は採用することができない。