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ID番号 09410
事件名 遺族補償年金等不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・福岡中央労働基準監督署長(新日本グラウト工業)事件
争点 自殺の労災認定
事案概要 (1)本件は、亡C(以下「亡C」という。)の父である原告が、亡Cが平成23年3月22日に自殺したのは、過酷な長時間労働及び度重なる上司からの叱責や暴言等の業務上の心理的負荷によりうつ病を発症したことによるものである旨主張して、労災保険法に基づく遺族補償年金の支給を求めたところ、福岡中央労働基準監督署長(処分行政庁)が、これを不支給とする決定をしたため、被告に対し、本件処分の取消しを求めた事案である。
(2)判決は、原告の主張を認め、福岡中央労働基準監督署長による労働者災害補償保険法による遺族補償年金を支給しない旨の処分を取り消した。
参照法条 行政事件訴訟法3条
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (12) 自殺
裁判年月日 令和3年3月12日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(行ウ)12号
裁判結果 認容
出典 労働判例1243号27頁
労働経済判例速報2450号19頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔//〕
(1)特に、年末年始の休暇等があった平成22年12月12日から平成23年1月10日までの時間外労働時間数が36時間であったのに対し、その後1か月間(平成23年1月11日から同年2月9日)の時間外労働時間数が106時間30分となっており、1か月間で時間外労働時間数が倍以上に増加している。このように、繁忙期に入ったことにより、亡Cは、業務量の著しい増加に伴う時間外労働の急激な増加を余儀なくされ、その後うつ病エピソードの発病に至るまでのおよそ1か月間(平成23年2月10日から同年3月18日)においては、優に月100時間を超える時間外労働を継続して行っており、多大な労力を要したことが認められるから、亡Cには大きな心理的負荷がかかったことが認められる。
 これを認定基準に即して判断すると、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当し、その心理的負荷は「強」と判断すべきである。
(2)Eは亡Cにとって畏怖の対象となる苦手な上司であったといえる。亡Cは、そのような上司であるEから連日にわたって、「腹黒い」、「偽善的な笑顔」などと言われたところ、これらの言葉はいずれも内心で何を考えているかわからない信用できない人物であることを印象させる同種のカテゴリーに属するものであって、亡Cとしては、上司であるEが亡Cをその言葉のとおり否定的に評価しているものと捉えてもやむを得ない面があったといえるから、これらの発言を単発的なものと評価するのは相当ではなく、一体のものとして評価すべきである。したがって、上記Eの発言は、入社2年目の亡Cにとっては相当程度の心理的負荷があったものと認められる。
(3)これを認定基準に即して判断すると、当該出来事は「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」に該当し、当該出来事自体の心理的負荷は「中」程度であっても、その出来事前に月100時間を超える残業時間(恒常的長時間労働)が認められることから、心理的負荷の程度を「強」と修正すべきである。