全 情 報

ID番号 09412
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人甲大学事件/学校法人帝京大学事件
争点 懲戒解雇の有効性
事案概要 (1)本件は、被告(学校法人帝京大学)との間で労働契約を締結し、被告が設置する大学において准教授の地位にあった原告が、通勤手当を不正に請求したなどとして、被告から平成30年10月9日付けで免職処分とされ、同月22日までに退職願を提出しなかったため、同月31日付けで懲戒解雇されたことについて、被告に対し、同処分は懲戒権を濫用したものであり無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、同懲戒解雇後の賃金及び賞与等の支払を求めた事案である。
(2)判決は、本件懲戒処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、有効であるとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/ 3 懲戒権の濫用
裁判年月日 令和3年3月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ワ)3884号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1270号78頁
労働経済判例速報2454号10頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/ 3 懲戒権の濫用〕
(1)本件通勤手当受給及び本件無届通勤は、採用当初より、支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間の差額を利得する目的で、かつ、届け出た公共交通機関ではなくバイク通勤をする意図でありながら、その目的、意図及び実際にバイク通勤を継続した事実を被告に秘匿するため、あえて被告大学の構内の職員用無料駐車場ではなく、本件店舗に駐輪し、しかも、公共交通機関による通勤手当とバイク通勤による実費との差額を利得するにとどまらず、あえて遠回りの通勤経路を届け出ることにより、公共交通機関による通勤手当を受給していた場合に本来得られる金額より更に高額の通勤手当を6年以上の長期にわたり受給し続けたものであり、被告に採用後一度も通勤定期券を購入したことがないことも踏まえると、受給額全額について詐欺と評価し得る悪質な行為であって、その経緯や動機には酌むべき事情は見当たらない。本件通勤手当受給によって被告が被った損害は、合計約200万円と多額であり、仮に原告がバイク通勤ではなく被告指定経路によって通勤していた場合であっても、原告届出経路との差額が100万円以上生じることとなり、生じた結果は重大である。原告は、本人尋問において反省している旨供述するものの、本件懲戒処分の前に行われた被告調査委員会及び被告懲罰委員会においては、具体的な反省の弁を述べることがないばかりか、大学の玄関においてバイク、タクシー、自家用車で通勤している者をそれぞれ確認して通勤届出と照合して指導するのが被告の事務職員の職責であるのに、自分は注意されたことはなく、被告の方で注意すべきであったなどと被告に責任を転嫁する言動に及んだ上、不正受給の金額を明示されたにもかかわらず、本件懲戒処分以前に自主的に受給した通勤手当を返還もすることなく、本件懲戒処分後に被告からの訴訟提起を受けてこれを返還したにすぎないことも踏まえると、本件懲戒処分時において本件通勤手当受給及び本件無届通勤につき真摯に反省していたものとは到底認められない。以上に判示した本件通勤手当受給の悪質性、これに係る経緯及び動機に酌むべき事情が見当たらないこと、結果の重大性、真摯な反省が見られないことに加え、被告において他の教職員が同様の不正受給を行うことを抑止する現実的な必要性が高いことも踏まえると、上記懲戒事由該当行為のみでも、戒告やけん責にとどまらず、免職を含む重い懲戒処分が相当である。
(2)本件各行為の内容やその程度等に関する事情を総合すると、原告は、悪質な詐欺と評価すべき行為により重大な結果を生じさせた上、全体的に規範意識の欠如が顕著であるだけでなく、自己の行為を隠蔽する行動に出るとともに、自己の責任を自覚せず、他者に責任を転嫁するような言動を繰り返すなどしたものであり、被告大学の教員として、学生を指導育成するとともに、その研究を指導する職責を担うにふさわしいとは到底いえないと評価せざるを得ない。
 そうすると、過去に懲戒処分歴がないことに加え、本件懲戒処分による現実的な不利益を含む原告に有利な事情を最大限考慮しても、懲戒処分のうち最も重い懲戒解雇ではなく、退職届を提出した場合には退職と扱って一定の退職金が支給される免職を選択した被告の判断は、社会通念上相当なものであり、裁量権の逸脱又は濫用があったということはできない。