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ID番号 09413
事件名 格差是正損害賠償請求事件
いわゆる事件名 科学飼料研究所事件
争点 非正規雇用労働者の不合理な待遇差
事案概要 (1)本件は、〈1〉被告と有期労働契約を締結して「嘱託」との名称の雇用形態により勤務していた原告ら及び〈2〉被告と無期労働契約を締結し「年俸社員」との名称の雇用形態により勤務していた原告らが、被告と無期労働契約を締結している上記「年俸社員」を除く他の雇用形態に属する無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当に相違があることは、労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。)ないし民法90条に違反している旨などを主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求める事案である。
(2)判決は、被告が原告ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を支給しないことは、労働契約法20条に違反するといえる。そして、同条が平成25年4月1日に施行されるに至っていたことからすれば、被告がこのような違法な取扱いを行ったことについては、少なくとも過失のあることが認められる、として不法行為に基づく損害賠償の支払等を命じた。
参照法条 労働契約法20条
民法90条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 令和3年3月22日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)151号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1242号5頁
労働経済判例速報2452号18頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 神吉知郁子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1568号130~133頁2022年3月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
(1)賞与
職能給は、職能資格等級に基づいて決定され、職能資格等級の昇格選考は、人事考課によって行われていた。このように、被告が支給する賞与は、人事考課の結果に連動し、また、年齢給や職能資格等級にも連動してその支給額が増えることになることに照らすと、その賞与には、労働意欲の向上を図るという趣旨や、一般職コース社員としての職務を遂行し得る人材を確保して、その定着を図るという趣旨が含まれていたといえる。
 そして、一般職コース社員と原告ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、そのため、両社員では人材活用の仕組みが異なっており、一般職コース社員については、職務遂行能力の向上が求められ、長期的な人材育成が予定されていたこと、また、両社員では賃金体系が異なっており、再雇用者を除く原告ら嘱託社員の年間支給額と比較すると、一般職コース社員の基本給の年間支給額は低く抑えられ、したがってこの点で月額の基本給も低いこと、定年後の再雇用者については、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されていることなどからすれば、その賃金が一定程度抑制されることもあり得ること、さらに、被告では嘱託社員から年俸社員に、年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられ、一定の登用実績もあり、嘱託社員としての雇用が必ずしも固定されたものではないことが認められる。以上の事情を総合すれば、原告ら嘱託社員には賞与が一切支給されないことのほか、原告ら嘱託社員についても賞与の算定期間中に労務を提供していることや、再雇用者を除く原告ら嘱託社員については継続的な雇用が想定されているといえることなどの事情をしん酌したとしても、一般職コース社員と原告ら嘱託社員との間に賞与に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
(2)家族手当、住宅手当
家族手当又は住宅手当として、扶養家族や同居者等の属性に応じて、一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと、被告が支給する家族手当及び住宅手当は、従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであったといえる。
 そして、扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは、原告ら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。また、原告ら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動の予定はされておらず、住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。
確かに、現役社員については、幅広い世代の労働者が存在し、雇用が継続される中で、その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し、再雇用者については、一定の年齢に達して定年退職をした者であるから、その後の長期雇用が想定されているとか、生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし他方で、住居を構えることや、扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上、再雇用者になると、その基本月額は相当な割合で引き下げられる一方で、被告において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺われない。
 これらの事情に照らすと、再雇用者を含め、原告ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは、不合理であると評価することができる。
(3)昼食手当
被告が支給している昼食手当は、当初は従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても、遅くとも平成4年頃までにはその名称にかかわらず、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。
 そして、一般職コース社員と原告ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、両社員では人材活用の仕組みが異なっていること、また、両社員では賃金体系が異なっており、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えても原告ら嘱託社員の月額支給額より低いこと、さらに、被告では登用制度が設けられていることなどの事情が認められ、これらの事情を総合すれば、昼食手当との名称や、原告ら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどをしん酌しても、一般職コース社員と原告ら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。