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ID番号 09415
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 巴機械サービス事件
争点 男女同一賃金
事案概要 (1)本件は、遠心分離機のメンテナンスや設置等を業とする被告(巴機械サービス株式会社)に入社した女性である原告X1、X2の両名が、被告に対し、自らが一般職とされ、総合職である男性従業員との間に賃金格差が生じていることについて、一般職と総合職の区別は性別のみであるから、この取扱いを定めた被告給与規定及びこれに基づく賃金制度が労働基準法4条に違反し、また、被告が採用段階において、原告両名が女性であることのみを理由に一般職に振り分け、総合職への転換を事実上不可能にしていることが、いずれも雇用雇用均等法に違反すると主張して、〈1〉原告両名が総合職の地位にあることの確認、〈2〉原告両名が総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額について、主位的に労働契約に基づく未払賃金の支払、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求の支払、〈3〉原告両名は違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償等の各支払を求める事案である。
(2)判決は、被告は、本件コース別人事制度の運用において、原告両名に対し、総合職への転換の機会を提供せず、結果として、その職種変更の機会を奪ったことが、雇用機会均等法6条3号及び同法1条の趣旨に違反し、そのことについて少なくとも過失があり、不法行為に該当すると認められるとして、原告両名に対し、慰謝料各100万円等の請求を認めた。
参照法条 民法90条
労働基準法4条
男女雇用均等機会均等法6条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 令和3年3月23日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)第715号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1243号5頁
労働経済判例速報2452号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 末啓一郎・労働経済判例速報2452号2頁2021年8月20日
橋本陽子・ジュリスト1563号4~5頁2021年10月
長谷川聡・労働判例1250号88~95頁2021年11月15日
富永晃一・季刊労働法276号167~176頁2022年3月
皆川宏之・明治大学法科大学院ジェンダー法センター年報2021号年69~70頁2022年3月
村田浩一・経営法曹212号101~113頁2022年6月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
(1)給与規定上、総合職は基幹的業務を一般職は補助的業務を担当することとされているところ、被告は、現業の知識、経験、技能を必要とする業務を基幹的業務と位置付け、これに基づいて総合職については現業に関する経歴の有無等を重視して採用してきたが、現業の経験を有する女性自体が少ないため、これまでに総合職の募集に対して女性が応募ないし紹介されたことがなかったと認められる。そうすると、結果的に総合職の全員が男性という人員構成になっているからといって、被告において、総合職と一般職との振り分けないし採用基準として、男性は総合職に、女性は一般職にという基準がとられていたとは認められない。なお、原告両名は、現業の知識、経験、技能を必要とする業務に従事するか否かを総合職と一般職の区別とすることが不合理である旨主張するが、どのような業務を基幹的業務と位置付けるかの判断は、基本的には使用者側の専権に委ねられるべきものであるから、原告両名の上記主張は採用できない。
 したがって、被告において、本件コース別人事制度の運用上、採用に際する一般的方針として、女性であることを理由とした差別的取扱いをしているとは認められない。
(2)原告両名が、採用時に自ら一般職を選択した事実は認められないものの、被告としては、必要となる人員や原告両名の経歴及び希望する業務内容等を考慮要素として職種及び配属先を振り分けた結果、原告両名が一般職として採用されたものと解され、女性であることを理由として殊更に一般職に振り分けたとは認められない。したがって、原告両名が一般職として採用されたことについては、合理的理由が認められ、少なくとも採用段階における取扱いについて、労働基準法4条ないし雇用機会均等法5条に違反するものとは認められない。
(3)本件コース別人事制度の下での採用段階において、女性であることを理由とした差別的取扱いがなされたとは認められないものの、被告においては、給与規定上は職種転換制度が規定され、一般職から総合職への転換が制度上可能とされているにもかかわらず、これまでに被告において一般職から総合職への職種の転換がなされた実績が存在せず、被告における本件コース別人事制度の現状が、男性を総合職、女性を一般職として男女で賃金や昇格等につき異なる取扱いをしているとの疑念を抱かせる状況が継続していることからすれば、一般職から総合職への転換がないことについて、合理的理由が認められない場合には、総合職を男性、一般職を女性とする現状を固定化するものとして、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁止する雇用機会均等法6条3号に違反するか、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とした同法1条の趣旨に鑑み、違法な男女差別に当たるというべきである。
そうすると、遅くとも、原告両名が総合職への転換を希望する意向を表明した時期(原告X1については遅くとも平成29年10月ころ、原告X2については遅くとも平成27年4月ころ)以降、被告は、原告両名に対し、総合職への転換の機会を提供せず、これによって総合職を男性、一般職を女性とする現状を固定化するものであるところ、この点について、合理的な理由が認められないのであるから、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁止する雇用機会均等法6条3号に違反し、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とした同法1条の趣旨に鑑み、被告が、原告両名に対し、本件コース別人事制度の運用において、総合職への転換の機会を提供しなかったことは、違法な男女差別に当たるというべきである。
以上によれば、被告は、原告X1との関係においては遅くとも平成29年10月ころ以降、原告X2との関係においては遅くとも平成27年4月ころ以降に、給与規定上予定されている職種転換制度を整えることなく、総合職への転換の機会を提供せず、結果として、原告両名の職種変更の機会を奪ったことが、雇用機会均等法6条3号及び同法1条の趣旨に違反したものと認められ、これについて少なくとも過失が認められる。
(4)原告両名は、男女の賃金差別がなかった場合、原告両名は、採用当初から総合職であったことを前提に、少なくとも男性総合職が入社から各年次に得られていた職能給の平均額と、原告両名に支払われた職能給額の差額を請求する。しかしながら、本件においては、原告両名が一般職として採用されたこと自体を男女差別ということはできないことに加えて、本来的に被告の人事権に属する採用、職種、等級及び号数等に関し、被告の意思表示ないし発令行為がないことからすれば、原告両名が入社当初から総合職であったとの前提自体が認められないから、原告両名の上記請求は前提を誤るものとして、その余を検討するまでもなく理由がない。また、被告が、原告両名に対し、総合職への転換の機会を提供せず、結果として、その職種変更の機会を奪ったことは違法であるが、だからといって、被告の意思表示ないし発令行為がない以上、原告両名が直ちに総合職に転換するものではないから、同様に、原告両名の上記請求には理由がない。