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ID番号 09417
事件名 未払賃金請求事件(120号)、受講料等返還請求事件(188号)
いわゆる事件名 ダイレックス事件
争点 研修時間の労働時間性、セミナー受講料の退職時返還合意の有効性
事案概要 (1)本件は甲事件と乙事件に分かれる。
〈1〉甲事件は、被告(ダイレックス株式会社)の従業員であった原告が、研修時間が労働時間であるなどとして、被告に対し、割増賃金等の支払を求めると共に、労働基準法114条に基づいて、付加金等の支払を求める事案である。
〈2〉乙事件は、被告において、①原告が、被告に在職中であるに聴講したセミナーの受講料について、被告との間で、平成24年3月11日、受講から2年以内に被告を退職した場合には被告にこれを支払う旨の合意(本件合意)をしたところ、平成28年10月2日に被告を退職したと主張して、無名契約たる上記合意に基づいて、原告に対し、受講料等の支払を求め、②原告が、上記受講に当たって要した交通費、宿泊費について、平成24年3月11日、受講後2年間、雇用契約が継続された場合には支払義務が免除されることを条件にした消費貸借契約に基づいて、原告に対し、貸金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、甲事件については、研修時間は労働時間であるなどの原告の主張を一部認容し、被告に対し割増賃金と付加金の支払を命じ、乙事件については、本件合意は労働基準法16条に違反するとして、被告の請求を棄却した。
参照法条 労働基準法第16条
労働基準法第32条
体系項目 労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (8) 研修・教育訓練
労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務 / (22) 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 令和3年3月26日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)120号...等
裁判結果 一部認容、一部棄却(120号)、棄却(188号)
出典 判例時報2513号63頁
労働判例1241号16頁
労働経済判例速報2455号24頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (8) 研修・教育訓練〕
(1)甲事件(研修の労働時間性)
本件セミナーの内容は、店舗で販売されるサンドラッグのPB商品の説明が主なものであること、本件セミナーの会場は、被告本社又は被告店舗であったこと、受講料等は被告が負担し、宿泊の場合のホテルも被告が指定していたことからすれば、本件セミナーは被告の業務との関連性が認められる。また、原告は上司に当たるエリア長及び店長から正社員になるための要件であるとして受講するよう言われていた上、店長も原告の受講に合わせてシフトを変更していたのであるから、受講前に受信したメールに「自由参加です」との記載があるとしても、それへの参加が事実上、強制されていたというべきである。そうすると、本件セミナーの受講は使用者である被告の指揮命令下に置かれたものと客観的に定まるものといえるから、その参加時間は労働時間であると認められる。
〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務 / (22) 労働者の損害賠償義務〕
(2)乙事件(本件合意の労働基準法16条該当性)
本件セミナーの受講は労働時間と認められ、その受講料等は本来的に被告が負担すべきものと考えられること、その内容に汎用性を見出し難いから、他の職に移ったとしても本件セミナーでの経験を生かせるとまでは考えられず、そうすると、本件合意は従業員の雇用契約から離れる自由を制限するものといわざるを得ないこと、受講料等の具体的金額は事前に知らされておらず、従業員において被告に負担する金額を尋ねることができるとはいっても、これをすることは退職の意思があると表明するに等しく、事実上困難というべきであって、従業員の予測可能性が担保されていないこと、その額も合計40万円を超えるものであり、原告の手取り給与額と比較して、決して少額とはいえないことからすれば、本件合意につき被告が主張するような法的形式をとるとしても、その実質においては、労働基準法16条にいう違約金の定めであるというべきである。