全 情 報

ID番号 09418
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 いわきオールほか2社事件
争点 安全配慮義務
事案概要 (1)本件は、被告いわきオール(車輌系建設機械・荷役運搬機械の検査、整備等を営む株式会社)の従業員であり、福島第一原子力発電所(「1F」という。)において自動車整備作業に従事していたHの相続人である原告らが、〈1〉被告いわきオールはHの雇用主として、被告宇徳(湾岸運送事業や建設業等を営む株式会社)は上記作業の派遣先事業者又はHと特別の社会的接触関係に入った元請事業者として、労働者の労働時間を把握し、適正に管理する注意義務(安全配慮義務)を負っていたにもかかわらず、これを怠り、Hを長時間労働等の過重な業務に従事させたため、Hが致死性不整脈により死亡したなどと主張して、被告いわきオール及び被告宇徳に対しては、債務不履行又は不法行為に基づき、被告いわきオールの代表取締役であった被告Y1及び同取締役であった被告Y2(以下「被告Y1ら」といい、被告いわきオールと被告Y1らを併せて「被告いわきオールら」という。)に対しては、会社法429条1項に基づき、損害賠償金等の支払を求めるとともに、〈2〉被告宇徳及び上記作業の発注者である被告東電は、1Fにおいて救急医療が必要となった場合に速やかに救急医療室で適切な治療を受けるというHの期待権を侵害したなどとして、被告宇徳及び被告東電に対し、不法行為に基づき、損害賠償金等の連帯支払を求め、〈3〉被告東電の担当者が同日に行った記者会見におけるHの死亡に関する発言により、原告らが精神的苦痛を被ったなどとして、被告東電に対し、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、被告いわきオールらに対しては安全配慮義務違反を認め損害賠償を命じ、その余の請求は棄却した。
参照法条 労働契約法5条
会社法429条1項
体系項目 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和3年3月30日
裁判所名 福島地いわき支
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ワ)30号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(1)被告Y1らは、少なくともHが死亡する前6か月間にわたって、被告いわきオールの代表取締役又は取締役として、従業員の過重労働等を防止するための適切な労務管理ができる体制を何ら整備していなかったということができる。
 したがって、被告Y1らは、代表取締役又は取締役としての職務を執行するにつき、安全配慮義務を悪意又は重過失により懈怠し、Hに過重な業務に従事させ、致死性不整脈により死亡するに至ったといえるのであって、Hに対して、それぞれ会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(2)被告宇徳が、Hを含む作業者に対し、作業について具体的な指示や助言を行っていたとか、現場監督者を置いてこれを指揮監督していたといった事情はうかがわれないのであって、Hを含む作業者は、各自の判断で業務を遂行していたとみることができ、被告宇徳は、本件整備工場を提供する立場を超えて、Hを含む作業者の具体的な労務提供の過程を指揮監督する立場にはなかったものと認めるのが相当である。
 したがって、被告宇徳が、Hが1Fでの作業以外の作業に従事していた事実などを認識していたとしても、被告宇徳が信義則上Hに対して原告らの主張する内容の注意義務(安全配慮義務)を負うものと認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)被告東電は、1Fでの工事発注者として、本件原発での復旧作業に従事する作業員に対し、その健康維持のために、救急医療室を設置し、必要十分な救急医療体制を維持すべき信義則上の義務を負う。
原告らは、1Fでの急病者の発生は珍しい事態ではなかったのであるから、被告東電は、安全配慮義務の一環として、〈1〉架電を受けずとも救急医療室に入室できるような仕組みを構築し、また、〈2〉作業員全員に携帯電話等の通信機器を持たせるべき義務を負っていたにもかかわらず、これらを怠り、救急医療が必要となった場合に速やかに救急医療室で適切な治療を受けるというHの期待権を侵害したことから、不法行為を構成する旨を主張する。
しかし、被告東電は、1Fで勤務する作業者に対し、救急医療室の外線が記載された「傷病者発生時の連絡カード」を配布し、傷病者が発生した場合には事前に救急医療室に架電するように指導していたことをも踏まえると、必要十分な医療体制や連絡体制を構築していたということができる。
1Fにおける作業が特殊な環境下であるとみる余地があるとしても、上記医療体制や連絡体制を超えて、原告らが主張する上記〈1〉及び〈2〉のような体制が1Fにおいて構築されているとの期待が、一般に広く共有されているとはいえず、直ちに法的権利又はこれに準じて保護されるべき利益であるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上より、原告らが主張するHの期待権が法的保護に値するとも、その期待権が侵害されたともいえない。
(4)被告東電による本件会見が原告らに対する不法行為を構成するものとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。